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第百九十話 最後の戦6

 三河 徳川軍本陣付近 【視点:須藤惣兵衛元直】



 本多忠勝率いる徳川軍中備えを突破した俺達は、その勢いの儘徳川軍の本陣に向かっていた。

 道中敵が点在していたが、武に優れる三左殿達森衆が蹴散らしてくれたので、大きな被害も無く進めていた。


「……須藤殿」


 左近殿が俺の隣に馬を並べて話しかけて来る。

 俺も左近殿も周りを固めてくれている森衆が戦ってくれているので、気は引き締めてはいるが緊張感は無かった。


「どうしたんだ左近殿」


「徳川は窮地だ。……本陣にも危険が及ぶ事は報告に上がってきている筈。……となると」


 ……そうか。


「……本陣から撤退している可能性もあると?」


「えぇ。……とはいえ、こうして足止めの兵士がいる以上、本陣に誰かしらが残っているのは確かでしょうがね」


「確か本陣にいるのは家康に信康・本多正信に南光坊天海、そして酒井忠次……だったか」


 そうなれば、本陣に残るのは誰になるだろうか。

 とはいえ、余り選択肢はない。

 大将である家康はあり得ないし、嫡男の信康は経験が足りなさ過ぎる。

 だからといっても本多正信とて兵の差配よりも調略や事前準備の方が得意な内政向きの人間だ。

 とするならば南光坊天海――明智光秀か。

 ……いや、今のアイツは明智光秀ではない、『家康の相談役』としてであるならば、家康の近くにいるだろう。

 なら、本陣に控えているのは――


「……徳川家家臣の中でも筆頭と称される重臣、酒井忠次。本陣にいるのは恐らくこの将だな」


 俺の言葉に左近殿も同じ意見だったのか頷く。


「とはいえ、恐らくは影武者として家康公の鎧は着ているでしょうが」


「……俺達にバレているから影武者としては意味ないけどな」


 まぁそれでも本陣に残って戦えば時間稼ぎにはなるだろう。

 本陣に控えている兵数は大将である家康を守る事を考えればそれなりの数になる。

 それが主君の為の時間稼ぎをする為に死に物狂いで、文字通り『命懸け』で抵抗するのだ。

 突破するのにもそれなりの時間が掛かる筈だ。


「――お二人さん。そろそろ敵本陣に到着だぜ」


 先頭を走っていた筈の三左殿が、いつの間にか目の前にまでやって来てニヤリと笑う。

 俺と左近殿は互いに視線を交わす。


「……一番槍は三左殿に任せるよ」


「その方が良いでしょうな」


 俺達の反応を見て、三左殿は満足そうに頷き、


「応よ。”槍の三左”が率いる森衆の武勇、見せてやる。その眼にとくと焼き付けな」


 そう言ってより一層笑みを濃くした。





「――手前等! 森衆が武勇、見せてやれ!」


「「「「おおおおおおぉぉぉぉっ!!」」」」


 とうとう徳川軍本陣が間近に見てきて、三左殿が槍を掲げて声を荒げる。

 それに応じて気勢を上げる森衆の兵士達のなんとも頼りになる事か。


「さぁ、行くぜ! ――突撃ぃぃぃいいいっ!!」


 三左殿と勝三が先頭で徳川軍本陣へ突入し、味方からも敵からも気勢や怒声が響く。

 こうなってしまえば乱戦だ。

 俺も隣にいた三左殿も刀を抜いて振るう。

 足軽兵程度になら負けるつもりはないが、それでもこの乱戦の中で気は抜けない。

 俺も神経を尖らせて周囲の気配を探りながら本陣にいる筈の将の姿を探す。

 そして、


「――見つけた」


 家康が本来着る筈の鎧兜を着た男の姿を。

 必死に刀を振るい、自身の身を守りながら周囲の兵達を鼓舞する男の姿を。

 とはいえ、俺自身が相手をする必要はない。


「――家康はあそこだ! 功を得たいならば奴を狙え!」


 声を張り上げ、指を差して注目を集める。

 影武者ではなく、大将を相手にしていると思ってくれた方が、此方の兵も必死になる。

 大将を捕縛・殺せる事が出来れば大きな功だからな。

 騙している様で少し申し訳ないがな。





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