第百八十六話 最後の戦2
三河 岡崎城近辺
織田・上杉連合軍と徳川家との戦の最前線。
織田家は柴田勝家が率い、信長の馬廻りとして尾張一国時代から付き従う佐々成政と前田利家の二将がそれを補佐している織田家きっての武闘派集団である越前衆が鳥居元忠・大須賀康高、そして少し遅れて参戦した大久保長安の部隊との戦闘を始めていた。
「――者共掛かれ掛かれ! 貴様等の武勇を今こそ天下に知らしめる時ぞ!」
「「「「おおおおおぉぉぉぉっ!!」」」」
勝家の激に、兵士達が気勢で応え、徳川勢に突撃していく。
「――隊列を乱すな! 決して殿の元に行かせてはならぬ!」
「一列目と二列目は交代せよ!」
「槍兵構え! ――突けぇーい!!」
一方の徳川軍も、鳥居元忠を中心に大須賀・大久保の両名がそれを補佐する形で越前勢の攻勢を押し留めていた。
槍兵を指揮する大須賀の声に応え、徳川軍の槍兵が一斉に槍を突き出す。
「――ぎゃあ!!」
「いぎぃっ!!」
突き出された槍が、突撃した越前衆の兵士の軽鎧を貫き、絶命させる。
兵達の士気を上げる為、鳥居が声を張り上げる。
「――死を恐れるな! 殿の為、その命を賭してここで死守するのだ!」
「「「「おおおおぉぉぉぉっ!!」」」」
だが、織田の兵達も負けじと死を恐れず次々に突撃し、槍を突き終えて隙のある徳川軍兵士を殺していく。
その様子を、利家と成政は遠くから並んで見ていた。
「……徳川の兵ってのは恐ろしい程の忠誠を家康に誓ってるんだな」
「いや、あれは忠誠どころか狂信だろう。……まるで寺社勢の一揆を見ている様だ」
「あぁ。……成程」
成政の例えに、利家は納得した。
寺社勢力――例えば本願寺や延暦寺等――の一揆は、非常に厄介だ。
恐ろしいのは彼等は信仰深く、それ故に死を恐れない。
死を恐れない者は、戦場において非常に厄介で強力な兵となる。
面倒なモノだと利家が眉を顰めていると、それを見つけた勝家が二人に怒鳴る。
「――成政! 利家! お主等何を休んでおるか! ……余り時をかけては不味い。埒が明かぬ故、鉄砲隊を使うぞ。成政、指揮せい! 利家、お主は足軽共を指揮し、鉄砲隊の動きを邪魔せぬよう兵を退かせい!」
「げ、叔父貴に見つかった。……了解! 成政、行くぞ!」
「応よ!」
成政と利家は互いに頷き合うと、勝家にこれ以上叱られない様にと急ぎ其々の役目へと戻った。
「少しは殿に良いところを見せなければな」
勝家に叱られて自分の兵の元に戻った成政は、鉄砲隊を率いて利家が指揮する部隊との交代のタイミングを待っていた。
利家と意見を交わし合い、四合打ち合った後に鉄砲隊による銃撃をすると決めていた。
そしてその時が訪れる。
「――今、全員退け!!」
利家の指揮に従って、織田軍越前衆の兵士達が一気に退き、徳川勢の視界に整然と並んだ銃口が此方に向いているのが映る。
「――鉄砲か! 退け! 退け~!!」
慌てて鳥居達が撤退の指示を出すが、それを逃さず、成政が鉄砲隊に命じる。
「――鉄砲隊、撃えぇぇぇぇぇっ!!」
成政指揮下の鉄砲隊が、成政の命令で一斉に引き金を引く。
――ドドドドドド!!
鳥居達率いる徳川先手衆に、数多の銃弾が放たれ、その命を散らした。




