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第百八十五話 最後の戦1

 1566年 三河 岡崎城近辺 【視点:須藤惣兵衛元直】



 徳川勢が俺達と撤退戦を繰り広げている間に織田・上杉連合軍は急いで軍を再編、追撃を開始した。

 数日後、三河の徳川氏の居城である岡崎城近くで両軍は相対することとなった。

 徳川軍の編成は前線に榊原康政を中心に、石川数正・鳥居元忠・成瀬正一・日下部定好・菅沼定盈・大久保忠世・松平靖忠・近藤秀用・松平信一・大須賀康高・平岩親吉・大久保長安・柳沢信俊と先の戦で生き残った先手・中備えの将達が配置され、天野康景・高力清長・本多重次と本多忠勝が敵本陣を塞ぐように配置、本陣に酒井忠次に本多正信・南光坊天海という編成の様だ。


 取り敢えず、忍達には南光坊天海こと明智光秀の動向を見張って貰う事として、俺は今回もまた左近殿と共に遊撃部隊であり、鉄砲隊とは別行動となる。

 最後の戦で長く付き合ってきた重秀達と別行動するのは少し寂しいが、遊撃部隊は機動力が重要なので仕方が無い。

 重秀達”雑賀衆”は前線で指揮をする吉継に預ける事となった。


 でだ。

 上杉には石川数正の部隊と相対して貰った後、中備えへと突撃して貰う事となっており、それ以外の部隊は織田勢で討ち取る方向となっている。

 織田軍は勿論武勇に優れた森衆と越前衆が中心となり、滝川衆や佐久間衆等の歴戦の猛将達が先手部隊として前線を押し上げ、木下隊や西美濃衆や細川衆・松永衆等の余った部隊が後続を固めていくという手筈だ。

 軍議を終え、各将達が自分の配置場所に移動していく中、信長と信忠様が俺に話しかけてきた。


「――須藤、手前にゃ色々と世話になったな」


「おいおい……何最期みてぇな事言ってやがる。まるで俺が死ぬみてぇじゃねぇか」


 俺が笑いながらそう返すと、信長も笑みを濃くする。


「ハッハッハ。手前がその程度でくたばるようなら、ここにゃいねぇだろうが。……手前等にゃ一番重要な役目を任せてんだ。絶対にしくじるんじゃねぇぞ」


「応。任せとけ」


 続いて、信忠様が静かに口を開く。


「須藤。……武運を」


 たったそれだけ。

 たったの一言だが、それにどれ程の感情が詰まっているのかを理解して、俺は笑った。


「無論。負けるつもりもありませぬし、死ぬつもりもありませぬよ。……では、行って参ります。……信長も」


「応よ。武運を」


 たった一言の激励に、俺は頷き、左近殿の元へ向かった。





「……さて、我等は先ず何処を叩きます?」


 俺が配置場所に辿り着くと、既に左近殿が馬に乗り、俺の馬の手綱を握っていた。

 俺は手綱を受け取り、馬に騎乗する。


「遊撃だしなぁ。……取り敢えずは前線の連中は他の部隊が相手にするだろうし、大久保長安か柳沢信俊の部隊辺りを狙うとするか」


 その両名の部隊は前線から少し後ろの、先手と中備えとの間に位置しているが、その視線は最前線で暴れて目立つ活躍をするだろう森衆や越前衆の方に向く。

 武川衆という”戦国最強”と謳われた武田家の遺臣である彼等だが、不意を突ければ俺と左近殿であれば勝てるだろう。


「成程、悪くない狙いだ。……じゃ、そろそろ開戦ですかね」


「あぁ。……いよいよだな」


 俺は静かに眼を瞑った。





 そして、最後の戦の火蓋が落とされる。


「――朝敵徳川を討ち、この天下に太平を齎す! さぁ、最後の大戦だ! 存分にその武、その知、奮ってくれ! ――鏑矢を放て!」


 織田・上杉連合軍大将織田信長。


「――死んでいった皆の為、これより生まれてくる者達の為! 厭離穢土をこの世に! 太平の世をこの手に! 皆、どうか頼むぞ! ――鏑矢を放ってくれ!」


 徳川軍大将徳川家康。


 幼い頃より共に過ごし、長きに渡り盟友として戦ってきた者同士、掲げる信念の為に、今決着を付けようとしていた。





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