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第百八十二話 別動隊急襲

 長篠 設楽原 豊川付近



 別動隊として動いていた俺と左近殿は、設楽原の近くに流れている豊川の近くにいた。


「……で、我等が誇る武闘派の方々と上杉家の方々先手衆は快勝。敵は先手中央部隊は壊滅、敵右翼部隊は敗走し中備え部隊と合流、左翼は将の一人が討死、それ以外の将は右翼部隊と同じく中備えと合流……。で、快勝した先手部隊は中備えと交戦、上杉は隊を二つに分けて片方は本陣に攻め入ったか。……ふむ、我々の出番は余り無さそうだねぇ」


 左近がそう呟く。

 中々に快勝である。

 前哨戦の結果としては十分ではなかろうか。

 想定としては、ここで敵をある程度少なくしておいてから、徐々に徳川の居城である岡崎城まで押し込んでいく作戦だったが、もしかするとそれ以上の戦果を見込めるかもしれない。


「……須藤殿、我等はどう動きますかい?」


「……ふむ」


 俺は暫し思案し、近くの兵士に尋ねる。


「……そういえば、徳川の別動隊はどう動いている?」


 思い出したのは徳川家別動隊の事。

 別動隊を使用しての急襲・挟撃は徳川が得意とする戦法だ。

 敵本陣後方に布陣しているという話だったが、今どう動いているのか気になった。

 忍達には戦場の事であれば全てを隈なく調べ、報告する様にと命じているので、調べている筈なのだが……。


「――はっ! 敵本陣より後方に配置されておりましたが、移動を開始したとの報告がありました。あれから時間も経っておりますれば、そろそろ新しい情報が入って来ても可笑しくない頃合いかと思いまするが……」


 そこに、一人の兵が駆け寄ってくる。


「――報告! 斥候部隊が敵影を発見致しました!」


「――見つけたか!」


 どうやら、徳川の別動隊を見つけたらしい。

 俺と左近殿は顔を見合わせる。


「敵は豊川を渡り、大きく迂回する道を進軍しております!」


 マジか。

 豊川まで渡るとはどれだけ遠回りするんだよ。

 ……とはいえ、奴等が通るこのルートから考えると、狙いは恐らく本陣にいる信長と信忠様だろう。

 圧倒的に不利な状況において、一番状況を引っ繰り返すのに有効なのは敵の頭を失わせる事だ。

 頭を失えば、混乱が生じ、統制を失う。

 それによって生じる隙は、寡勢である徳川にとってはこれ以上ない好機となる。

 一応兵士達もいるが、あそこにいるのは信忠様近衛の連中や、武芸には長けない”軍監”達ばかりだ。

 ここで止める必要があるだろう。


「……左近殿、敵本隊を叩く前に一仕事するとしましょうか」


 俺が笑みを浮かべてそう言うと、左近殿も笑みを返してくる。


「ですな。……先ずは敵を素早く襲える騎馬隊を中心とした私の部隊で急襲して叩き、討ち漏らした兵を須藤殿の部隊で叩く。……どうでしょう?」


 流石、かの有名な島左近だ。

 頼りになる。

 とはいえ、討ち漏らさないとは限らない。

 ここは更に部隊を分けるとしよう。


「わかった。……重秀!」


 俺は雑賀衆を取り纏めてくれている鈴木重秀を呼ぶ。


「何だ旦那?」


「これから徳川の別動隊を叩く。……お前は半数を率いて今から指定する場所で待機し、敵が来たら襲ってくれ」


「応。任せとけ」


「じゃ、場所を言うぞ――」


 さて、敵本陣を叩く(本番)前に少しばかり身体を動かしますかね。





「――急げ! 疾く駆けよ! 疾く駆けよ!」


 別動隊を指揮している内藤信成と内藤家長は、兵達を叱咤しながら馬を走らせていた。

 彼等別動隊の役目は、本来は先手や中備えとの交戦によって伸びきった織田軍の中備えを叩く事だった。

 だが、先手衆は壊滅し、それが出来なくなったのだ。

 そして、彼等に徳川家軍監である本多正信・南光坊天海の二人から命じられたのは、豊川を渡り、戦場を大きく迂回し、織田・上杉連合軍の本陣を急襲、大将である信長と信忠の頸を取る事だった。

 とはいえ、それが無茶である事は理解していたが、だからこそ彼等はなんとしてでもこの役目を成功させようとしていた。

 だが、


「――敵襲! 敵襲!」


 突如上がる緊張感と焦燥感に駆られた声と悲鳴、そして刃と刃が交わる金属音。

 そして、


「――さぁ、掛かれ掛かれ! 須藤殿達にまで残す必要はないぞ! 今ここで殲滅してやれ!」


 聞こえてくる敵将の声と御乏しき飄々としながらも猛々しい声。

 それに応える兵達の勇ましい声。


「――な、何故織田軍がここに!?」


「まさかバレていたのか!?」


 驚いたとて、現実が変わる訳でもない。

 彼等はただ、この状況を打破する為に足掻くしかなかった。




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