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第百八十一話 太平の世のために

「報告致します! 先手全部隊敗走! 左翼の大久保忠世様・松平康忠様・近藤秀用様は討たれる前に撤退し無事でしたが、中央の本多忠次様・依田信蕃様・奥平貞能様は敵中備えまで攻め込みましたが、敵の罠に掛かり討死! 右翼も撤退しております! 織田・上杉の先手部隊は尚も此方に向けて攻めてきております! 此方に到着するのも時間の問題かと」


 徳川軍中備えを率いる二将、徳川が誇る武闘派筆頭とも言える本多忠勝と榊原康政の二人に届けられた報告に、両将は眉を顰めた。


「……先手部隊が敗走か。……中央部隊は特に被害が大きいな」


「本多殿・依田殿・奥平殿。……どの将も三河武士に相応しき武勇優れ、誇高い者達でした。……その死を無駄にしてはなりませぬ」


 依田信蕃・本多忠次・奥平貞能。

 その最後は、敵の罠に掛かるというモノであったが、敵中備えにまで到達し、道を切り開かんとしたその意思と武勇、散り際は三河武士の誇りだ。

 彼等は、主君の為に死んだ者を『罠に掛かり死んだ者』などと侮辱したりはしない。


「……ここで押し留めるしかあるまい。殿の元に生かせる訳にはいかんからな」


「あぁ。……なんとしてでも守らねば」


 二人は頷き合うと、来るであろう織田・上杉連合軍と相対する為に立ち上がった。





 徳川軍本陣



 一方その頃、戦の為に長篠城から出陣し設楽原に布陣した徳川家康の元にも、報告が届いた。


「――報告致します! 先手衆中央部隊壊滅! 依田信蕃様・本多忠次様・奥平貞能様討死! 先手左翼部隊の大久保忠世様・松平康忠様・近藤秀用様は無事ですが、忠佐様は討死! 兵達は壊滅した模様! 上杉と相対した鳥居元忠様・成瀬正一様・日下部定好様・菅沼定盈様は中備えに合流するとの由」


 それは、自身に忠義を尽くしてくれている将達が討たれたという悲報だった。

 幾度かの降伏勧告に応じて徳川の元に参じてくれた依田、父忠俊の代から徳川家に尽くしてくれている忠次、そして独立時に今川から離れ徳川についてくれた貞能、そして武勇に優れた忠佐。


「――なんと! ……信蕃に忠次、貞能。それに忠佐までもが討たれたとは」


 家康は忠臣達の死に涙を流して悲しむ。

 己に尽くし、共に太平の世を作ると誓った者達の死に、家康は心から涙した。


「……殿、今は家臣の死を嘆いている時ではありませぬ。この戦、御身の死こそが我等が敗北。御身の身に比べれば、家臣の死など、比べる迄もありませぬ。今はこの戦に勝利する事を考えなされませ」


 家康が信頼を置く知恵者、本多正信の言葉に家康は眼を見開いて驚き、周囲にいた将達は露骨に顔を顰める。

 友の、同僚の死に何も思わず、武に長けている訳でもない。

 更に今川から独立して直ぐにあった一揆の際に一揆勢に味方した事から、裏切り者として嫌われていた。

 だが、天海も正信の意見に同意する。


「……正信殿の仰る通りです家康殿。先手部隊は破られ、中備えに到達しようとしております。……これからどうするべきかを考えなければなりません」


 天海は家康の眼をジッと見て、言い聞かせる。

 家康は、暫く何かを考える様に眼を瞑る。

 そして、眼を見開き、口を開く。


「……そうだな。今はただ、この戦に勝つ事だけを――」


 だが、そう都合良くいくはずもない。


「――報告致します! 此方に近寄ってくる部隊あり!」


 徳川の窮地は続いていた。





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