第百七十三話 大評定
1566年 信濃 福島城 【視点:須藤惣兵衛元直】
それから更に一月程経ち、一番遠い安芸の毛利が到着した事で、大評定に参加する全ての将が揃う事となった。
織田・上杉・毛利という勢力が集まる大評定と言う事で、尾張や信濃の三河との国境沿いで徳川勢を見張っている柴田殿率いる柴田衆からは唯一代表として長である柴田殿が、信濃の国境沿いで見張っている滝川殿と佐久間殿達からは、代表して滝川殿が大評定に参加する事となった。
更に、大和の松永・丹後の細川からは次期当主である久通と忠興が従軍した。
松永弾正と細川藤孝の両名は畿内に残って京の警護に当たる。
本能寺の時の様な事を繰り返したくはないという考えからで、京には奥方様や、信忠様の奥方である松姫様もおられたりするので、警備は必要だろう。
更に、近江で安土城の普請を担当している丹羽殿や信長の護衛を任されている三左殿、高山右近殿等摂津国人衆、紀伊の国人衆に備前の宇喜多、毛利との国境近くの国々に配備されている木下隊なども揃っている。
天下の趨勢が決まる戦である事から、普段は各地に散らばっている織田の諸将達の多くが一堂に会していた。
更に、上杉は当主輝政を筆頭に、直江景綱や柿崎景家、甘粕景持や小島貞興や小國頼久千坂清胤等の、所謂”上杉二十五将”と後世にて称される将達が揃っていた。
勿論、その中に俺と同じ転移者である松尾景亮もいる。
一応同盟国という関係であるが、同盟の盟主が織田である事から、輝政は下座に座っていた。
とはいえ、勿論のことだが一番上座に近い場所に座している。
そして、後ろの方に、毛利の若き当主である輝元と、その供である小早川隆景もいる。
「――では、これより大評定を始める。……先ずは良く集まってくれた。感謝する」
信長の言葉に、織田家臣達が一斉に頭を下げる。
それに合わせて、上杉の諸将達も頭を下げた。
「……この戦が、この戦乱の世における最後の戦となるだろう。皆、存分に己が武を、知を、奮ってくれや。……さ、”軍監衆”! 現状の報告を頼む」
「「「「――はっ!」」」」
軍監衆を代表して、”軍監”である半兵衛が報告を始める。
「――現在、織田に所属する忍により徳川と諸国に潜伏する反織田勢力との接触を遮断、海上は九鬼水軍によって封鎖しており、徳川は孤立無援の状態に陥っております。故に、徳川方の勢力としては、古くより仕える旧臣達と、”赤備え”含めた武田の遺臣達のみと報告が上がっております」
半兵衛の説明を、今度は官兵衛と吉継が引き継ぐ。
「徳川軍の兵数は凡そ三万~四万。対して、我等織田・上杉の兵数は十三万を動員しております。数が多い故、必要な兵糧も膨大な数となりますが、各地の商人達に協力を要請し、兵糧も逐次輸送されております。兵糧が尽きる、という事は先ずないと考えて宜しいかと」
「……対して、徳川は海路・陸路共に封鎖され……各地の商人にも徳川に物資を売る事を禁止した事で……兵糧の数には限りがありますので……徳川は長期戦は出来ぬと思われます」
そして再び、半兵衛が口を開く。
「……決戦の場は三河国の長篠。……そこから軍を展開し、圧倒的な兵数で徳川の居城である岡崎城まで敵を抑え込んでいきます。大まかな方針は以上です。――では、これより各々方の役目を申し渡します」