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第百七十二話 今更ながらに思う事

 1566年 信濃 木曾谷 福島城 【視点:須藤惣兵衛元直】



 それから数日後には、当主として美濃の岐阜城にいた信忠様の部隊が到着した。

 与力である勝三、斎藤利治殿等美濃衆も一緒だ。


「――おう、須藤の旦那! 久しぶりだな!」


 信忠様と同年代の勝三も、信忠様と同じく一応もう二十歳程という年齢なのだが、図体ばかりでかくなっても性格は会ったばかりの頃から変化していない。

 まぁそう簡単に人間が変わる筈もない。

 快活で、純粋で、戦闘が大好きな、大型犬の様な奴である。


「久しぶりって程久しぶりじゃないだろ。……お前の方は相変わらず元気そうだな」


 呆れ半分で俺が笑うが、


「応よ! この戦が最後の大きな戦だって聞いたからよ! もう気が急いて急いて、楽しみでしょうがねぇんだ!」


 俺の言葉に、素直に笑う勝三に肩を竦め、今度は利治殿に話しかける。


「利治殿、勝三のお守、苦労様でした」


 年上である俺に敬語で話しかけられる事に慣れていないのだろう。

 利治殿は恥ずかし気な表情を浮かべ、


「……いえ、まぁ。それなりの長い付き合いですからな。……慣れておりますよ。須藤殿こそ、”軍監衆”としての役目」


 そう俺達が会話していると、部隊後方で馬に揺られていた信忠様が入城し、俺達の姿を見て近寄って来た。


「――須藤、壮健そうでなによりだ」


「えぇ。信忠様も。……信忠様、先ずは城代である木曾殿と会われませ。……話ならばその後に」


「そう、だな。……先ずはそれか。勝三、利治。ついてこい」


 信忠様は頷くと、勝三と利治殿を連れて、評定の間に向かう為に馬を歩かせた。

 その後ろ姿を見送りながら、ふと思う。


 会ったばかりの頃、初めての戦場で恐怖から失禁する等幼かった信忠様が、いつの間にやらあんなに大きくなっているのである。

 時の流れは速いものだ。

 この世界に来てもう二十年程度経つが、信長に会い、織田軍に雇用されてからの十一年は、非常に濃密だったと言って良いだろう。

 何せ、教科書やゲーム、漫画や小説の中で描かれる『戦国時代』だ。

 今まで大小様々な戦場で戦ってきたが、平和な時代に生まれた俺が大きな怪我無く生き残れたのは、師匠に拾われ、剣や兵法を教わったからこそだ。

 そうでなければ、俺は『この世界に来て死んだ転移者達』二名と同じ末路を辿っていただろう。


 ……そういえば、俺はこの世界で死ぬとどうなるのだろうか?

 二十年以上も前の事なので、朧気にしか覚えていないが、確か俺はレポートの最中に眠ってしまい、この世界に子供の姿でやってきた。

 恐らく、転生者達の中でも特殊な境遇の筈だ。

 景亮の様子だと、輝政公と会った時には学校の制服を着ていたという事から、高校生だったのだろうが、その年齢でこの世界に飛ばされてきた筈だ。

 それに比べれば俺は特殊だろう。


 俺が死んだとて、元の『正しい史実の世界』に戻るのか。

 だとして、元の時間に戻れるのだろうか。

 それとも『この世界の先にある未来』に戻るのだろうか。

 この世界で死んで其の儘、という可能性も無くはないだろう。


「……ふぅ」


 俺は大きく息を吐きだす。

 所詮は俺自身では決められない事だ。

 そんな事気にしても今はどうしようもないだろう。


「……さ、仕事に戻るか」


 俺は”軍監衆”に割り当てられた執務室に戻る事にした。

 だが、執務室に戻って忍から上がった徳川側の軍容を纏めた書類の、とある部分に眼がいった。

 その書類には、酒井忠次や榊原康政、本多忠勝等徳川の将達の名と、兵の数等が書かれていた。

 その中に、気になる名前を見つけたのだ。

 それは、本来ならばもっと後に出てくるはずの名前。

 史実においても謎の多い人物。


「”軍師”――南光坊天海、ね。……生きてたのか」


 一つ、俺がやるべき事が増えたな。




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