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第百七十一話 大評定の準備

 1566年 信濃 福島城 【視点:須藤惣兵衛元直】



 大評定を行う為、俺達”軍監衆”は先遣して信濃の木曾が居城とする福島城に入城した。

 ”軍監衆”という事で、つまりは半兵衛に官兵衛、吉継に俺、そして護衛として左近殿という面子だ。

 実質左近殿も策を立てたりする事が出来てしまうので、時々仕事を助けてくれたりする。

 今は執務室で”軍監衆”で仕事をしている最中で、左近殿は周囲の見回りや兵の鍛錬を主な仕事にしてもらっている。

 まぁ此処にいるのは頭脳労働ばかりで、実際に兵を率いて戦うのは俺と左近殿――時々吉継――だけだからな。

 その俺がこうやって”軍監”の仕事でてんやわんやしている以上、武将としての役割は左近殿に任せっぱなしである。

 俺達はここで来る将達を何処に宿泊させるか、兵達はどこに置くか、武具や馬具等の数の調査や兵糧の蓄えの計算等をしている。


 後は毛利から当主である輝元公が大評定を見に来たいという書状が送られてきていたので、それを迎え入れる為の仕度もしなければならないのである。

 若く、それに加えて戦には参戦はしないものの、一国――どころか数国を領地としている大国である毛利家の当主である輝元と、その叔父である”毛利両川”の片割れである小早川家当主小早川隆景が来るのである。

 護衛の兵も相当数になるし、和睦を結んで深い友好関係をこれから築こうという毛利家が来るのならば、それに相応しいもてなしをしなければならないのだ。

 織田の面子もあるのだ。


 というか輝元公、ねぇ。

 史実においては”謀聖”と呼ばれた祖父元就、早くに亡くなった父隆元、そして優秀な叔父達に囲まれているのにも関わらず、父隆元と共に余り良い評価を得ていない将だった筈だ。

 まぁこの世界においてはどうかは分からないが。

 噂に聞く限りは余り武将には向かないのんびりとした穏やかな性格の若者であるらしい。


 書状に書いてあったのは大雑把に言うと、『まだ未熟な輝元に、大評定を見せたい。織田・上杉の将達と直に会う事で、より多くの事を学び取って欲しいので、どうか大評定に出す事を認めてくれ』という事だった。

 勿論、他国の人間に送る為の書状である為、つらつらつらつらと色々と書かれちゃいたが、んな事はスルーだ。


「……毛利の方々が来るのは何時(いつ)程だっけ?」


 俺の質問に、半兵衛が書類を纏めながら答える。


「大評定にはまだ時間がありますが、遠方である安芸から来ますからね。……恐らくは大評定の行われる直前に御到着されるかと」


 そりゃそうだ。

 大評定に参加する人間の中で一番遠いからな。

 織田軍内だと備前・備中に配置されている木下隊なのだが……。


「官兵衛殿、他の部隊の移動はどうなっていますか?」


「……徳川がいつ攻め入って来ても良いように国境沿いに備えて下さっている柴田殿や滝川殿、佐久間殿等は参加する事は出来ませぬが、備前・備中の木下隊、丹後の細川衆、大和の松永衆に紀伊・摂津の国人衆は本隊と合流を始めており、美濃におります信忠様と与力の家臣達は此方に移動を始めております。上杉の軍の到着は恐らく毛利と同時期になりましょう」


 官兵衛の発言に続き、吉継が言葉を発する。


「……後は須藤殿配下の忍を使い……忍狩りを行うと共に、徳川の情報収集を逐一行う事……ですね」


 そう言いながらも、各々手元にある書類に眼を通し、時に印を押したり書類の不備を修正していく。

 まだ仕事はたっぷりあるのだ。

 徳川との戦が始まるまでも、全く暇などないのである。





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