幕間 毛利の血を引く者達
最近の話より少し前のお話です。
1566年 年初 安芸 郡山城
織田との戦を終え、和睦を結び織田傘下となった事で、毛利家は織田と共に土佐の長宗我部に攻め入り、勝利した事で、一旦の落ち着きを見ていた。
現在の毛利は、若くして当主隆元が死んだことで、その息子輝元が継ぎ、まだ未熟であるが故に先代当主であり”謀聖”と名高き名君元就が実質的な当主として家を動かし、その息子である”毛利両川”達が支えるという形態をとっていた。
元就自身は「天下を競望せず」と語っている為、織田の天下に対して思う事は無く、寧ろまだ若き輝元が立派な当主となるよう、織田の有能な者達から学んで欲しいと思っていた。
「……次は徳川との戦か。織田も戦が多い事だ。だが、この日ノ本において大きな戦は恐らくこの戦が最後だろう。……暫くはな」
これより先の時代がどうなるかは元就には与り知らぬ事だ。
既に己は老い先短く、次代を作っていくのは目の前に座る輝元や、息子の吉川家を継いだ元春や小早川家を継いだ隆景である。
しかし、織田が下手を打たなければ、戦があるのはずっと先の事になるだろう。
「……御爺様?」
ふと、懐から書状を取り出し、それをジッと見る元就を、孫である輝元が心配そうに声を掛ける。
その後ろで、息子達もまた元就を見ていた。
「……輝元」
「はい。なんですか?」
「…………織田と徳川の戦、後学の為に行く事を命ずる」
突然の発言に、輝元達は驚いた。
反発したのは後ろに控える”毛利両川”である。
「――父上! 何故いきなりその様な事を!」
「これよりは戦のない時代でありましょう! 後学のためというならば、書を読ませた方が為になりましょう!」
だが、元就は首を横に振った。
「……別に戦を見てこいと言って居る訳では無い。織田に書状を送れば、近く織田と上杉の間で大評定が行われるという。……その場にはこの日ノ本に名を轟かせる智将・勇将・猛将が揃うのだ」
”掛かれ柴田”や”米五郎左”、”織田の二兵衛”に”乱世の梟雄”に”退き佐久間”、そして”越後の龍”と大評定に集まるであろう名高い将達の名を上げていく。
「その者達の人となりを知り、近くで見る事は何よりの学びだ。……その評定に参加し、その者達の事を良く見てくると良い。……大評定は直ぐだ。この後すぐに出立せよ。供は隆景、お主に頼みたい。出来るか?」
「……父上の頼みでしたら」
隆景は静かに頷く。
「……えっ! 叔父上とですか」
隆景は輝元に対して特に厳しく接し、輝元にとっては一番苦手な親族である。
隆景にとっては、当主として立派になって欲しい故の行動であるが、輝元にはそれが通じていないのだ。
「……輝元よ、織田や上杉の元に向かうのだ。その様な弱気では駄目だ。毛利家当主として、毅然とした態度でおれ。その様な態度では織田や上杉に嘗められようぞ」
「……では、頼むぞ隆景」
「――承知」
その後、嫌々という表情で輝元は隆景を供として大評定が行われる信濃に向けて急ぎ出立したのだった。