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第百六十八話 転移者同士の話し合い

 1565年 【視点:須藤惣兵衛元直】



 織田の勢力圏における現在の中心地である日ノ本の中心、京。

 二条御所の一室で、俺は上杉家当主上杉輝政公の御側付きにして、俺と同じく転移者――俺が転移者と言っても良いのかはわからないが――である松尾景亮と再会していた。

 実質、数ヵ月ぶりの再会である。


「応、いきなり呼びつけて悪かったな」


 俺が声を掛けると、松尾景亮は首を横に振った。


「いえ、こっちも色々話したいことはありましたから……」


「さて、何から話すべきか……。そうだな……上杉家の戦の準備はどれ位進んでる?」


 一番聞きたかったのは上杉が戦に向けてどれ位仕度が終わっているかという事だ。


「えっと……大体六割方ってところですかね。……うちの松尾衆でしたら何時でも動かせますけど」


 松尾衆か。

 確か鳶加藤や”歩き巫女”等の忍集団に加え、あの真田や高坂等の武田の遺臣達、それと利益がいる筈だ。

 なら、丁度良い。


「そうだな。……じゃあ三つ者と協力して徳川の情報の収集と監視でもやってもらうかね」


「分かりました。"歩き巫女"と、甲斐衆に頼んで"吾妻衆"も出しましょう」


「お、マジか。有難いねぇ。……徳川は窮地に立たされてる。守ってるだけじゃ滅びるだけだ。とはいえ、攻めたとしても不利な事は変わらねぇ。……攻めるか、守るか。取り敢えずの問題は、奴さん等がどっちを選ぶか、だな」


「向こうが逆転する方法は一つ。信長と信忠を討ち取ることでしょう」


 まぁそうなんだけどな。


「あぁ。……とはいえ、大将である信長と信忠様が前線に出る訳じゃねぇ。向こうもそれは理解してるだろ。……先ずは何処ぞを攻めて、徐々に支配地域を広げてくだろうぜ」


 恐らく攻めるならば尾張か、今川領か、それとも信濃か。


「まぁ家康といえば、"鳴くまで待とう"ですから。ゆっくり時間かけてくるかもしれません。その間に心変わりする大名を待つ方法もあります。ここの家康は、まだ若いですから」


 景亮の考えも解らなくもないが、俺は首を横に振った。


「……いや、俺としては来年が勝負だと思ってる。……寧ろ、攻めてこないんだったらこっちから仕掛けるさ。相手の準備が整うのを待つ馬鹿はいねぇだろ?」


 寧ろこっちから仕掛けた方がアドバンテージは取れると思うんだよな。


「まーた、朝廷から大義名分貰うんですか?」


 呆れ半分な表情で、景亮が聞いてくる。


「ククク……応よ。実は既に与一郎殿――細川や近衛殿に朝廷に上申して貰ってるんだ。恐らく、来年には徳川は”朝敵”だろうぜ」


「あー……すごい悪玉(ヒール)っぷり」


 景亮がジト目で見て来るが、そんな事気にしない。


「ハハハ、基本的に奇襲しかしない人間に今更何を言うか」


「本当に奇襲しかしてないんですね。んじゃ結構知らないところで死んでる人もいるんですね?」


「…………知りたいか?」


 あの阿保将軍とか、敵意を向けさせる為に幕府軍の恰好をして殺した農民達とか、長坂とか跡部とか、な。

 前の二つの事実を知ったら、多分俺は輝政公に殺されるだろう。

 此奴がどう思うかは知らないが。


「いえ、大丈夫っす」


 幸いにも、景亮は俺の笑みから良くない事だろうと感じたのか、踏み込んでくる事は無かった。



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