第百六十六話 情報収集と忍狩りはこまめに
1565年 京 二条御所 【視点:須藤惣兵衛元直】
対徳川への戦支度をし始めてから早数ヵ月、今俺は配下である忍を使い、徳川を主に全国各地に潜伏している反織田勢力の情報収集と、妨害工策を中心に動いていた。
現在、伊賀・甲賀・三つ者の得た情報を集め、今後の方針を考えていた。
「……伊賀同心、ねぇ」
徳川に所属している忍は、伊賀でも名高い服部家の出である徳川家の家臣、服部半蔵こと服部正成が率いている。
主な役目は情報収集で、その練度は高いと言える。
とはいえ、伊賀の忍全体から見れば僅かな数だ。
服部家の中でも徳川家に所属していない服部家の者を含めた伊賀忍・甲賀忍・武田に仕えていた三つ者と、織田の――というよりか俺が雇っている――忍は、練度でも数でも恐らくトップクラスだ。
長宗我部への諜報を織田の忍に引き継いだ今、全力を以て徳川や反織田勢力の情報収集に専念させる事が出来る。
「……今はどういう状況だ?」
俺の質問に、甲賀忍の連絡役が答える。
「――はっ! 現在、徳川への諜報を三つ者が、畿内の反織田勢力の情報収集を伊賀忍が、徳川が反織田勢力に放った忍の捕縛を甲賀忍が担当しております」
今、特に力を入れているのが甲賀忍が担当している徳川が他勢力に放っている忍の捕縛だ。
織田・今川・上杉・北条という大国に囲まれている徳川は、物資を得る方法が自国での生産に頼るしかない。
まぁ同盟での取り決めで徳川への物資や人の流れを遮断しているからなのだが。
だからこそ、忍の存在は徳川にとって重要なのだ。
同盟の網を掻い潜り、反織田勢力に協力を持ちかける為の書状を届ける忍の存在こそが、徳川の生命線といえる。
後は海での貿易もあるか。
……なら九鬼や毛利に頼んで水軍を出して警戒して貰うとするかなぁ。
”軍監衆”に意見を上げてそれが通り、それを信長や信忠様が許可したら、だけど。
「……で、忍はどれ程捕縛した?」
「……凡そ百程。……潜伏している勢力のみならず、一度は織田と敵対した勢力や、未だ織田との関わりが薄い西国諸国への書状を持っておりました」
一度は敵対した勢力……ねぇ。
毛利とか蘆名、後は長宗我部とかだろう。
上杉は同盟を結んだばかりなので、流石の徳川も上杉は無理だと判断したのだろう。
前にも書状を送って曖昧な答えを返されたらしいし。
で、西国……っていうと大友や島津とかだな。
有名どころとしてはそんなところだが、西国は意外と国が細かく、有力者達が多い。
とはいえ、織田に対抗出来るのは島津や大友等の大国だろうし、貿易の事も考えると、恐らくは島津に協力を要請するつもりだったのだろう。
だが、残念ながらそれは島津に届かないだろう。
「……わかった。忍狩りを多くした方が良さそうだな。……織田勢力圏内に潜伏している反織田勢力の情報収集は織田に直接仕えている忍や、根来衆に引き継ぐ様に信長に進言するから、伊賀は甲賀と共に忍狩りに当たってくれ。……一人とて逃さない様にしろ」
重要なのは徳川を孤立させる事だ。
「……捕縛出来ないのなら、殺しても構わん。……絶対に他勢力に書状が渡らない様にしてくれ。……頼んだぞ」
「「「「――承知」」」」
答えるが早いか、各地に散らばる忍達に情報を伝える為に退出していく忍達。
「……俺も信長のところに行くか」
やらなければならない事は、まだまだあるのだ。
出来うる限りの事を、しなければならない。
俺もまた、立ち上がって部屋を出て行ったのだった。