第百六十四話 長宗我部攻めをおえて
1565年 京 二条御所 【視点:須藤惣兵衛元直】
「――あー疲れた」
「おぉ、帰って来たか。……ご苦労だったな」
土佐の長宗我部攻めから帰って来た俺は、信長のところに遊びに来ていた。
……やれやれ。
一応仕事とはいえ、落ち着く暇が一切ない。
信頼されてるってのも解るし有難いモンではあるのだが、それはそれで大変なものだ。
「……これで後は徳川と里見、幾つかの抵抗勢力って位か」
まぁ勿論のことながら、朝倉や武田・六角に旧幕府軍と別にその悉くを皆殺しにしている訳ではないので、生き残りは確実に存在する。
「……統一後の事も考えにゃならねぇしなぁ」
そうだ。
ゲームなりなんなりならば、『天下統一後は治世が続いた』で終わるだろうが、生憎ここは俺にとっては現実である。……多分。
俺は別に死んで此処に来たわけではないので、そこら辺は分からない。
ただ眠くなって起きたらこの時代にいたってだけだからな。
さて、天下統一後も考えるべき事といえば、法や組織の整備である。
史実同様、各家の権威を低くし、将軍家――この場合は織田だ――に集めるのか。
それとも、各家に任せ、最低限の統治で終えるのか。
各家に任せたとて、法や数、単位も領ごとに別にするのか。
朝廷との関係性をどうするのか。
決めなければいけない事は山ほどある。
……のだが、
「それの仕事は”軍監”の連中や得意な将達に任せりゃ良いだろ」
軍事よりも内政の方が得意な半兵衛や官兵衛・吉継に、丹羽殿等内政を得意とする将達に任せてしまえば良い。
俺は……アドバイス程度で良いだろ。
餅は餅屋って奴だ。
一応、俺も色々と学んじゃいるが、結局のところ俺は凡人であるし、元はただの一般人であり、法の専門家ではない。
「……手前も一応その”軍監”だろうが」
「ハハハ。……で、手前としてはどんな国を作りてぇんだ?」
信長からの視線をスルーし、訊ねる。
信長の目指す世――太平の世という事以外、余り話したことは無かった。
「ん? ……そうさなぁ。取り敢えずは男だろうが女だろうが有能な奴を出自関係なく使いてぇな。……後は人が理不尽に死なねぇ世にしてぇ」
こりゃまた意外と大雑把だ。
……まぁ徳川家康の掲げる『厭離穢土』っていうのも俺からしてみりゃ曖昧なモンだと感じてしまうので、意外と史実でもこんな感じだったのかもしれない。
戦の終わる前から細かく決めても、思い通りに上手くいくとは思わないし。
「……まぁ多分だが、これからの世の基盤は信忠様やら次代の連中が作ってくもんだ。……一先ずの俺達の役目は『戦乱の世を終わらせる事』だ。……信長」
俺は信長の方を向く。
「……お前と信忠様が良ければ、吉千代を信忠様かその子の小姓にしてくれ」
「お、おう。……構わねぇよ。信忠にも話を通しておくぜ」
心配なのは吉千代の事だ。
俺が継がせられる様な立場だったり、土地であったりするものがあれば良いのだが、残念ながら俺が持っているのは”軍監衆”という一代限りの立場だけ。
しかも、そのトップである”軍監”や”軍監補”という立場でもない。
金ならある。
多分一般市民であれば一生――とまではいかないが――暮らしていける程度だが。
「……で、対徳川の準備ってのはどれ位進んでるんだ?」
「そうさな。……全ての仕度が終わるのは年が明けてから、ってところか」
全てが丸く収まるのはまだまだ時間が掛かるだろう。
だが、恐らく、次代の趨勢が決まるのは――来年だ。