第百五十九話 家の繋がり
遅れてすいません!
「目出度い! 真に目出度い! この同盟を強固なモノとする為に、各家との繋がりを強くしたいものだ!」
酒宴が始まって暫くして、少しばかり酔っているのか、僅かに顔を赤らめた北条家当主北条氏政が、突如立ち上がった。
それに、赤ら顔の信長も同調する。
「おぉ、そりゃ良いな! ……して、氏政殿は何をするつもりだ?」
信長の質問に、大袈裟に頷いた氏政は、上杉家当主上杉輝政に顔を向ける。
「うむ、うむ! そこで、だ。……上杉の家に、我が北条との友好の証として、我が次男である国増丸を輝政殿の養子として頂きたい……と思いはしたが、我が子が可愛く、それも嫌でなぁ。……故に、弟である三郎を、輝政殿の養子として頂きたいのだ! ……聞けば、上杉の次期当主殿には年齢の近い者が少ないと聞くのでな!」
三郎こと、北条三郎。
幼い頃には箱根早雲寺で僧として過ごしていが、その後は大叔父である北条幻庵こと長綱の養子として預けられている若者である。
その提案に、酒の影響で少し頬を赤らめた輝政は短時間考え込んでから返した。
「……私は構いませぬ。北条と縁ができればこれ以上ない繋がりとなりますからな」
輝政の返答に、氏政は嬉しそうに笑い、更に酒を煽って語り始める。
「うむ! 今まで北条と上杉は長きに渡り領土を巡って戦をしてきた。……だが、それでは互いの民も泣こう。これを機に、戦などせず、互いに手を取り、繁栄せねばなるまいよ」
綾「ところで北条の御当主殿、その三郎とはどのような男子なのでしょう?」
それを、上杉の一門衆代表としてこの場にいる綾御前が遮って訊ねた。
「ん? おぉ、三郎は幼き頃より聡明な奴でしてな。その上容姿端麗で心優しい、兄として自慢の弟ですぞ!」
三郎の事を語る氏政の顔には満面の笑みが浮かんでおり、どれ程三郎の事を自慢に思っているかが窺える。
「婚姻はどなたかとされているのですか?」
「いえ、実はまだなのです。いい女子がいれば良いのですが……」
史実における三郎は、北条幻庵の娘と婚姻関係にあったが、この世界では弟である氏光との婚姻が決定していた。
「ふむ……輝政、耳をお貸しなさい」
それを聞いた綾御前は、輝政の耳に口を近付け、何かを喋った。
「何ですか姉上様……それはっ!? ……姉上様と華が良いのでしたら」
綾御前の言葉の何に驚いたのか、輝政は顔を驚きに見開いたが、結局は頷いた。
「構いません。これで同盟もより固くなると思えば、善いことでしょう」
綾御前に頷いた輝政は、氏政の方に向き直る。
「……分かりました。氏政殿、三郎殿を養子に迎え入れた後、我が姪である華と婚姻を結ばせて頂きたい」
養子入りに加え、上杉当主の姪との婚姻。
上杉との確実かつより良い関係を結べると、氏政は破顔した。
「おぉ! 有難い! ……我が弟の事、宜しく頼みますぞ」
「えぇ。二人はきっと上杉と北条の架け橋となってくれることでしょう」
今まで長年敵対していた上杉・北条が互いに手を取り合っている光景を見て、戦の無い世はこうなるのだろうかと思いながら、
「――今日は目出度い日だ! さぁ、思う存分食い、飲み、騒ぐと良い!」
そう言って満足気に笑い、杯に並々と注がれた酒を一気に飲み干した。
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