第百五十八話 同盟者達の邂逅
1565年 美濃 岐阜城 評定の間
美濃岐阜城の評定の間。
そこに、織田と同盟を結んだ三つの戦国大名と一門衆、各家の家臣団を代表して同盟の内容を決める役目を負った者達が揃っていた。
「……さて、今川・北条・上杉の同輩よ。初めて会う奴もいるだろうが、俺が織田信長だ。見知りおけぃ」
そんな中、傍らに”軍監衆”を代表して”軍監”である竹中半兵衛重治を控えさせた織田家大将織田信長が各家の者達を前に立ち上がって言い放った。
そして、傍らに控える半兵衛も頭を下げる。
「……織田家家臣”軍監”、竹中半兵衛重治。以後、お見知りおきを。……此度こうして遠路遥々来ていただいたこと、我が主に代わり感謝致します」
正に奔放を絵に描いたような態度の信長に、それと正反対の半兵衛。
織田家中の人間は、この場に二人しかいなかった。
半兵衛が目配せをして合図を送ると、それを受け取った男が全員の方を向いて頭を下げる。
「……ふむ。では私から名乗るべきか。……今川治部太輔氏真。見知りおいてくれ」
簡素な名乗りを上げる物憂げな雰囲気を漂わせた駿河・遠江の二国を領地とする今川家当主、今川氏真。
そして、その後ろで控えていた将も頭を下げる。
「……今川家家臣団を代表し、朝比奈泰朝。皆様、どうかお引き回しの程、宜しくお願い致します」
今川氏真が太原雪斎亡き後最も信頼する家臣、朝比奈泰朝が性格を反映した真面目な態度で名乗った。
「では、次は私だな! 北条家第四代目当主、北条相模守氏政である! 皆、見知りおいてくれ!」
北条家当主氏政が、快活な様子で名乗る。
その顔には、相も変わらず人の良さそうな笑みが浮かんでいた。
そして、
「……北条氏政が弟、北条氏照に御座います。皆様、まだ若き身に御座いますが、お引き回しの程、宜しくお願い致しまする」
弟である北条氏照。
そして、
「北条家家臣、北条綱成。……護衛として参った」
ただ言葉少なに名乗る北条が誇る闘将北条綱成。
”関東の雄”北条家は一門衆のみで構成されていた。
そして――
「越後国主、上杉輝政。見知りおけ」
「輝政が姉。綾と申します。此度は一門を代表して参りました」
「上杉家臣。直江景綱と申します。何卒宜しくお願い致しまする」
上杉家当主”越後の龍”と名高き上杉輝政。
上杉家一門衆より上杉政景の奥方である綾。
そして上杉家家臣団より代表として直江景綱。
上杉当主が女である事を初めて知った者達である筈だが、それを指摘する者はここにいない。
一同が自己紹介を済ませたのを確認し、半兵衛が切り出した。
「……此度集まって頂いたのは、同盟の内容を話し合う事、そして互いに親交を深める為に御座います」
当主達や一門衆は互いの顔合わせと、親交を深める為。
各家の頭脳者達は、同盟の締結やそれ以外の物資のやり取り等を決める為。
織田の天下が近い今、統一後の事も考えて各勢力の意志を確認し、示し合わせていかなければならない。
「……徳川が水面下で反旗を翻そうと動いている事が知っているだろう。……安房の里見や、各地に散らばる反抗勢力も、恐らく徳川に合流するだろう。……この同盟は、言わば”対徳川同盟”だ」
信長の言葉に、其々が内心どの様な思惑かはわからないが、その場にいる者達は真剣な表情で頷く。
「……東北の伊達や佐竹・最上に蘆名、西国の大友に島津・毛利。……この日ノ本において広い領土を持つ者達は既に織田と友好関係にある。……天下統一は後もう少しだ。この同盟は、その中心になるだろうさ。……同盟の内容は半兵衛達に任せる」
「――はっ! では各家の代表の方は私について来てくだされ。……別室にて、詳細を詰めまする」
半兵衛の言葉に従い、今川からは朝比奈泰朝が、北条からは北条氏照が、上杉からは直江景綱が立ち上がり、半兵衛と共に部屋を辞した。
「……さ、俺達は互いに仲を深めようじゃねぇか。――酒を持て!」
信長の合図で、控えていた女中達が食事の乗った膳と大量の酒を運び込んできた。




