第十四話 桶狭間の戦いの決着と動き出す次代の英傑達
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本当に有難うございます!
偏に皆様のお陰です。
本当に、本当に、有難うございました。
……このネタわかる人いるのかな?
「――はぁっ!!」
「何の!!」
斬りかかった一忠の刃を義元が難なく弾き、金属の打ち合う甲高い音が幾度となく響く。
技量の差は義元の方が少しばかり上。
徐々に一忠の方が押され始めた。
「一忠殿! 助太刀致す!」
そこに、織田軍の兵がもう一人加わる。
織田軍馬廻衆の毛利良勝である。
「済まない! 毛利殿!」
「ふむ、二人か。……是非も無き事よ」
義元はそれも良しと二人相手に刀を構えた。
数合打ち合った後、
「――フッ!」
「――ぁが!!」
義元の振るった刀が一忠の膝を斬り付け、一忠は思わず倒れ込む。
だが、次の瞬間、
「――ハァッ!!」
良勝の振るった刃が義元を斬り付けた。
痛みによって倒れそうになる義元であるが、
「――見、事! だが、我とて武家が頭領よ! ――ぅぐ!!」
「――ぐっ!?」
良勝に駆け寄ると良勝の指を一本噛み千切り、その勢いのまま仰向けに倒れた。
良勝も義元の行動に驚き、その驚きと痛みで尻もちをついた。
「……ハァ、ハァ、ハァ」
義元の傷は明らかな致命傷。
最早命は助からないだろう。
そこに、信長が馬廻を連れてやってきた。
馬上から義元に声を掛ける。
「……手前が今川治部大輔か」
「…………織田の……頭領か」
義元も荒い息を吐きながら、答える。
「……見事、実に見事よ。此度が戦、お主の勝ちよ……ゴホッ!」
義元が喋る度に、その口から血が流れだす。
それでも、義元は喋るのを止めない。
「……織田の。我を討ち取ったお主は天下に名を知られよう。……だが、この日ノ本には龍も、獅子も、虎も、鬼もおる。未だ尾張一国のみを統治する虎子たるお主では、そ奴等に呑まれよう」
信長の父信秀が”尾張の虎”と呼ばれた為、信長を”虎子”と称する義元に、
「――んなもん知らねぇよ。龍だろうが獅子だろうが虎だろうが、喰い破るだけだ。……それに、虎の子が虎とは限らねぇだろ?」
獰猛な笑みを浮かべた信長の言葉に、義元は笑う。
「クックック! ……違いない。なら、お主はこの日ノ本を喰らう化生――”鵺”となるが良いわ」
そう言って一しきり笑うと、
「毛利某! その武勇天晴れである! この今川義元が頸を取り、汝が誉れとせよ!」
「――御免!!」
良勝は信長の方を見、信長が頷くと、義元に喰い千切られた指から血を流しながらも刀を構え、その頸を刈り取り、
「今川軍大将、今川治部大輔義元! 毛利良勝が討ち取った!」
その頸を空に掲げた。
それを見て、自分達の大将が討ち取られた事を知った今川軍の兵士達は、自分達が負けた事を理解してその場に座り込んだり、泣き出したりと様々だ。
その光景を満足そうに見ながら、信長が声を上げた。
「此度が戦、我等の勝利ぞ! ――皆、勝鬨を上げよ!」
「「「「オオオオオオオオォォォォォォォッ!!!」」」」
織田の兵士達の勝鬨が空に響き渡る。
いつの間にか、雨は止み、雲間から太陽の光が差し込んでいた。
三河国 大樹寺
「まさか今川が敗れるとは」
そう大樹寺の本堂で肩をガックリと落としたのは今川の傘下として戦に参加していた松平元康であった。
義元が討ち取られた事で総崩れとなった今川軍は自国へ向けて撤退をしていたが、元康もまた、三河の大樹寺にまで撤退していたが、既に織田の軍に囲まれていた。
元康は考える。
故郷である三河を離れさせられたものの、今まで自身を育ててくれた恩がある。
しかし、この戦によって今川は大きくその勢いを失うだろう。
現当主は既に義元公の子息である氏真殿となっているが、果たして彼が離れていく臣下達を御する事が出来るかはわからない。
だが、今裏切れば、今川はすぐさま手を打つだろう。
……なら織田に走るか?
だが、今回織田に敵対し、攻め入った事もまた事実。
織田に降伏したとて、信長が許してくれるとは思えなかった。
「……松平も終わりよ」
そう言って脇差を手に取り、自害しようとしたが、
「……何故割腹なさるか」
後ろから声を掛けてきた者はそう言って元康の手を止めた。
「……登誉殿」
元康を止めたのは大樹寺の住職である登誉天室だった。
登誉は家康の肩をそっと握りしめる。
「……元康様、我等には『厭離穢土欣求浄土』と言う言葉が御座いまする。この現世を穢国とし、それを浄土へと変えねばならぬ、という意味に御座います。……今、この日ノ本は戦に塗れ、命が消えぬ日はありませぬ。罪なき民草は皆、この世の”浄土”を求めておりまする」
その言葉に、元康は刀を握っていた手を下ろす。
「……この国を、”浄土”に……太平に……する、か」
そう呟いて暫く眼を瞑り、何かを考えていた元康は眼を開けると登誉に頭を下げる。
「登誉殿のお陰で眼が覚め申した。……この松平元康! この国を穢土より浄土へと変えて見せまする!」
そう言うと、本堂を出て行き、外で待っていた臣下達の前に姿を現した。
先程までと違う主君の様子に、臣下達は嬉しそうな表情を浮かべる。
「殿!」
「お待ちしておりました!」
「うむ。皆、心配させたな。……私はこれより、今川から独立し、天下太平を目指す! ……先ずは此処より出て岡崎城へと入る! この負け戦は天下太平への一歩よ! 皆、気張れぃ!」
「「「「オオオオオオオォォォォォ!!」」」」
元康に絶対の忠義を尽くす三河武士達は、主君の言葉に歓喜に奮え、見事岡崎城への撤退を成したのである。
今川領 駿府館
そして、史実とはまた違う道を歩もうとしている者がまたここに一人。
「そうか……父上が討死したか」
「はっ! 武家の頭領に相応しき最期だったと」
「……そうか」
駿府館で留守を任されていた今川現当主、今川氏真は何の表情も湛えず、淡々と報告を聞いていた。
「――氏真様! 如何なさいますか!」
「此の儘織田が攻めて来れば……」
「武田も動き始めましょう!」
前当主であり”東海一の弓取り”と評され、圧倒的なカリスマ性を持っていた義元の死に俄かにざわつき始める臣下達。
それを、
「――静まれ」
氏真の一声で、場が静まった。
氏真は父親の死にも動じず、淡々と指示を出し始める。
「……織田に書状を送る。織田とこれ以上刃を交えるは得策では無い。……雪斎」
「――はっ!」
氏真が臣下の中で最も信頼している、父義元の右腕である太原雪斎もまた、史実においては桶狭間の前に死んでいる人物であるが、この世界では既に老齢ではありつつも生きていた。
「……家臣達を寝返らせぬように調略をすると同時に、織田への使者として尾張に行ってくれぬか?」
「――承知仕った」
二つ返事で雪斎が頭を下げたのを一瞥し、「さて、次は」と呟いて、
「……元康等は独立を目論むだろうが、織田との談合の結果によるが、談合が上手く行けば独立したとて攻めては来まい。元康は信長殿を慕うと同時に恐れておる様だしな。独立する程度ならば放っておけ、今暫くは国内を安定させるで手一杯であろうしな。……武田は義父上殿に救援を頼もう。武田とて長尾との合戦が近い。今川に攻めようとしたとて、背後の長尾がそれを見逃す訳がない」
氏真は自身の隣に控えている若い女性へと顔を向ける。
「北条との繋ぎはお主が頼りだ。義父上殿への取次は任せたぞ、早川」
「……氏真様の為、今川の為、必ずや」
関東の雄にして”相模の獅子”と謳われた北条氏康が娘にして氏真の妻である早川殿はそう言って頭を下げた。
「……では皆、今川が名を後世に残す為、精々足掻くとしようか」
そう言って今川家当主、今川氏真は家臣達に向けて笑った。
史実世界の後世において、戦国時代における暗君の代表格とも評されるこの男の選択が、この世界の”歴史”にどの様な影響を与えるのか。
それを知る者は――いない。
たまには氏真がこんな感じの作品があっても良いと思うんだ。
ブックマーク、評価宜しくお願いします。




