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第百五十三話 同盟の確約を得ての帰還

 1565年 京 二条御所 【視点:須藤惣兵衛元直】



 上杉の居城である春日山城を出立した俺達は、温泉を楽しんだ後、京へと戻り、信長への報告の為に二条御所を訪れた。


「久しぶりだな須藤。……その顔を見ると、どうやら順調に成功したらしいな」


 俺の顔を見た途端、成否を悟った信長はニヤリと笑みを浮かべた。


「応。……今川と北条、それに上杉。各国とも同盟の締結は問題なし。……取り敢えず目的は達成出来たな」


「あぁ。……上杉との同盟が上手く進んで良かった」


 全くだ。

 武田が滅び、毛利が織田と和睦した今、織田と敵対していた勢力で力を持っていたのは上杉だっただろう。

 北条や伊達等敵対勢力に囲まれながらもその領土を保っていたどころか、先の戦において信濃の半分を支配下に置くなど、寧ろ領土を増やしていたのだ。

 その一端を、俺と同じ転移者である松尾景亮が担っていたのだろう。


「……これで織田と敵対するのは徳川に長宗我部、それと北条と敵対する里見……だな」


「あぁ。……漸く天下が見えてきた」


 嬉しそうに頷く信長に、そう言えばと俺は思い出した事を訊ねた。


「……そういや。上杉の当主が女だったって知ってたか?」


 俺の質問に、信長は眼を見開いて驚く。

 やはり知らなかった様だ。

 だが、直ぐに笑みに戻すと、


「成程ね。……行人包で顔を隠しているという話はあったから何かあると思っちゃいたが、女だったか。……ま、良いんじゃねぇか? 男より有能な女なら、当主なりなんなりなれば良いさ。一番愚かなのは愚者を頭にする事だ。……だろ?」


 全く以てその通りである。

 義昭や龍興等、愚者が頭となっている勢力の末路は同じ”敗北”と”死”、”家や組織の終焉”だ。


「それに、会ったばかりの頃に話してくれたじゃねぇか。外国(とつくに)の女傑達の話を。……別にこの国にも一人位そんな女傑がいたって良いだろうさ」


 ……ホントに此奴は新鋭的な考え方の奴だ。

 男性上位で階級的なこの時代の中、牢人である俺や左近殿、農民だった秀吉や女性である柊殿を登用するのは非常に珍しい事だ。

 それに、海外にも興味はあるらしいが、どうやら貿易や日本より進んでいる技術の方に眼を向けているらしく、戦を仕掛けるなんて話も無い。

 まぁそんな事になれば俺が止めるけど。


「……次はどうするつもりだ?」


「応よ。……上杉や北条・今川に徳川に眼を光らせて貰い、俺達は西国で反旗を翻し続けている長宗我部を攻略する。須藤、最後まで頼むぜ」


「応」


 俺は真面目な表情を作って返した。





 数ヵ月後 京 二条御所



「――皆、良く集まってくれた」


 二条御所の評定の間の上座、そこに座る信長は下座に座る家臣達に労いの言葉をかけた。

 柴田殿率いる越前衆や安土城の普請を任されている丹羽殿、美濃を任されている斎藤利治や滝川殿、今は三河に近い尾張に詰めている佐久間殿等織田の宿老達はおらず、その多くが織田の次代を担う者達だ。

 ……因みに、俺は古参の方に当たるから宿老扱いなんだなこれが。

 まぁ俺も三十代だし、この場に多い二十代連中に比べると確かに年上なのだ。

 この場にいる宿老としては勝三に当主の座を譲った三左殿位である。

 他の黒母衣衆や赤母衣衆は京の守衛として京に残る事になっている。


「……皆知っての通り、今川・北条・上杉の三国と同盟を結ぶ事が決まり、徳川の牽制が出来ている今、西国にて抵抗する長宗我部を討つ!」


「「「「――はっ!」」」」


「……現在阿波の三好や摂津の国人衆、和睦出来た毛利等が長宗我部と小競り合いを繰り返しているが、何時までも戦乱の世を続ける訳にもいかねぇ。……俺は同盟締結の為に京に残り、大将を信忠にやって貰う。……半兵衛!」


「――はっ! ……今より編成を申し渡します」



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