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第百五十一話 同盟締結

「無論。こちらとしても同盟の話は願ってもないこと」


 輝政公からの返答に、俺は内心ほっとした。

 上杉の説得をどうするか。

 今回で一番の問題だった。

 織田に対して余り良い印象を持っていないだろう上杉だが、恐らくは”利”を取ったのだろう。


「……有難し。此方側として、同盟を結ぶ際には鉄砲を五百挺、その他物資や趣向品等をお渡しする用意が出来て御座います。更に同盟を結んだ後は更なる支援をお約束させて頂きまする」


 鉄砲を五百挺。

 他国からしてみればとんでもない数の鉄砲である。

 根来や雑賀等、鉄砲に対する知識と技術を持っている者達を配下としている織田だからこそ可能な数だ。

 そしてそれを、渡す準備は出来ている。


「そんな物よりも、織田には今度こそ、越中越後に侵攻しないことの確約をもらいたい。でなくては、先の魚津城にて親族や友を失った者達が納得してくれまい」


 ……おや、こんな大量の鉄砲を”そんな事”か。

 それよりも自国の安全を取る、ねぇ。

 まぁ輝政公の言っている事は理解出来る。

 恐らくは家中からの反発も少なからずあっただろう。

 その者達を納得させるには、それを約束させる事が必要と判断したのだろう。


「……ふむ、確かにそうですな。……承知した。織田が上杉の領土に侵攻しない事を、不肖この須藤惣兵衛の命を懸けて確約致しまする」


 俺から伝えれば、信長も無下にする事は出来ない筈だ。

 一応、信長からそれなりの信用を得ていると自負しているからな。

 俺がそれを確約する事が、この場合は最も良いだろう。


「上杉だけではない。越中神保もだ」


 おいおい、同盟者まで守るつもりか?

 ……仕方ないな。

 これ以上上杉と敵対するのは時間の無駄だ。


「承知した。して、これ以外にも要求は何か御座いますかな?」


「そうだな……北条、今川と同盟を結ぶ際の仲介をお願いしたい。特に北条とは敵対していたからな……」


「おぉ、それは丁度良いですな。……北条の御当主である氏政殿からも『上杉との縁を結びたい』との申し出があり申したぞ」


 多分あれかな?

 三郎の上杉養子入りフラグが立ったかな?


「そうか……それで、引き受けてもらえるか?」


「……確と承りました。氏政殿も氏真殿も喜びましょう」


「で、あれば他に欲するものもない。こちらも、いつ援軍を要請されてもすぐ向かえるよう、兵を調えておこう」


 良し!

 これで上杉も味方に出来たな。


「……では、同盟の詳細はまた後日」


 同盟内容の詳細は、半兵衛や官兵衛達に任せて良いだろう。

 俺の仕事は『上杉との同盟を結ぶ事』までだ。


「あぁ。では、織田の使者の方々、細やかではあるが、食事の席を用意させてもらった。今日はゆっくり休まれるがいい」


「おぉ、それは有難い。……越後といえば鮭等の海産物が有名でしたな」


 輝政公の申し出に、与一郎殿が嬉しそうに笑う。

 そうだよな。

 俺達の目的はそれだもんな。

 ……いや、別に使者の仕事を忘れてるって訳じゃないぞ?


「それと温泉も、ですな」


「……しかし、旅とは楽しいですな。各地の風情ある景色を見、名産を口に出来るのです。これ程の贅沢はありますまい」


「「「ハハハ」」」


 松永が髭を扱きながら言うのに対し、俺達は笑い合う。

 すっかり俺達の空気は弛緩していた。

 完璧にオフモードである。


「では食事の席まで案内させましょう。絶」


 俺達が笑っていると、輝政公の声掛けに外から一人の女性が入って来た。

 輝政公とは正反対の印象を受ける少女だ。


「はい。近衛前久が妹、絶でございます。須藤様、松永様、お初に御目にかかります。細川様も、お久しゅう御座います」


「おぉ、絶殿! お久し振りですな。御壮健そうで何よりです」


 与一郎殿が笑みを浮かべて少女――絶殿に声を掛けた。

 成程な。

 近衛殿の妹君なら、同じ幕臣だった与一郎殿と顔見知りであったも可笑しくはない。


「はい、ご無沙汰しております」


「近衛殿とは幾度となく顔を合わせておりましたが、絶殿とは真に久し振りですな。……しかし、何やら随分と()になられた様ですな。……フフフ」


「ほ、細川様っ!?」


 与一郎殿の発言に顔を真っ赤にして驚く絶殿。


「ククク。……細川殿、余り若い女子を揶揄うモノでは御座いませんぞ。それに、その様な事を言うのは()()というモノです」


 ニヤニヤと笑って与一郎殿に声を掛ける松永の言葉に、より一層絶殿は顔を赤くしてしまう。

 おいこらおっさん共。

 何サラッとセクハラ発言してんだっての。

 いいぞ、もっとやれ――じゃなくて、それ以上やると怒られるぞー。


「あまり絶に意地悪は止めていただきたいものだな。絶は純情ゆえ、な」


 ほれ、怒られた。

 まぁそれを気にする与一郎殿ではない。


「おや、これは失敬。……フフフ。では、案内を宜しくお願いしますぞ」


「は、はいっ! それではこちらへ」


 その後、未だに顔を赤くさせた絶殿に案内され、評定の間を退出した俺達は、その後用意された越後で獲れる海産物と地酒に舌鼓を打ったのだった。

 非常に美味しかったです。

 いやー使者の仕事ってのはおいしい仕事だなぁ。



現在投稿しております新作の方も読んで下さると嬉しいです。

ブックマークも宜しければ……。


”屍のオルフェ”(仮題)

https://ncode.syosetu.com/n4878em/

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