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第百四十九話 いざ相模へ

 1565年 【視点:須藤惣兵衛元直】



 駿府館にて饗応を受けた俺達は、当主氏真公の奥方である早川殿の護衛として北条の本拠である小田原城に向かった。

 ”関東の雄”後北条家。

 元は今川家の家臣であり、戦国時代の開幕を担った梟雄北条早雲を初代とし、関東でも随一の勢力圏を誇る歴代左京太夫と相模守を任命されてきた一族である。

 その現在の当主は北条氏政。

 武田信玄・上杉謙信・今川義元と天下に名立たる将達と戦いながらもその勢力を維持し、検知や税制改革・目安箱の設置と民政に長け、民に愛された後北条氏三代目である”相模の獅子”こと北条氏康の息子である。

 武田との戦の時には氏康と氏政の二頭制であったが、その氏康が完全に隠居した為、現在は氏政が当主となっている。


 その北条氏政。

 実質的な北条家最後の当主となった故に悪評が目立つ人物であるが、後世で作られた俗説であったりする。

 有能な弟達との仲も良く、妻を愛した愛妻家であるらしい。(早川殿談)

 まぁ姉である早川殿が言うのであれば事実なのだろう。

 俺達は早川殿に一族衆がどの様な人物達なのか、相模国はどういったところなのかを詳しく聞きながら数日掛けて相模国へと入ったのだった。




 相模国 小田原城 評定の間



「――お久し振りですね」


「おぉ、姉上。久しいな! 近頃は顔も見れず弟としては寂しかったぞ。義兄上(あにうえ)は壮健か?」


「はい。貴方に会いたいと申しておりました」


「そうかそうか!」


 北条氏政の第一印象は穏やかな……シスコンだった。

 いや、だって早川殿の顔を見た瞬間のあの顔の綻びようったら!

 と、氏政公はふと顔を真面目なモノに変えた。


「……して、後ろの三人が先触れであった三人か?」


「えぇ。……織田家家臣の須藤元直殿・細川藤孝殿・松永久秀殿です」


 俺達は早川殿の紹介に合わせて頭を下げる。


「先の明智の謀反の事は聞き及んでおる。……信長公は御無事であるか?」


 氏政公の問いに、代表して俺が答える。


「――はっ! 既に矢傷も癒え、体調も回復しております。……氏政殿からの見舞いの品、大変喜んでおりました」


 光秀の謀反後、療養中の信長には各勢力達から見舞い品が大量に送られてきた。

 尾張から乗って来た船は、その見舞い品のお返しを乗せた船である。

 北条からは名産である密柑や地酒等が送られてきたので、此方からは南蛮菓子や鉄砲等を持って来た。


「お返しの品の目録は此方に。京ですら手に入り辛い南蛮菓子や鉄砲等です。……どうぞお受け取り下さい」


 懐から書状を出し、それを前に出す。

 それを受け取ったのは北条氏康の三男である北条氏照。

 諸勢力との外交・折衝に尽力した人物である。


「頂戴しよう。……どうぞ兄上。話の続きを」


「うむ。……して、此度来たのは我等と同盟を結びたいという事だったな?」


「はい。……以前より今川を介しての関係にありましたが、これからは今川含め、より良き関係でありたいと」


「ふむ。……皆はどう考える? いつも通り、忌憚なく発言せよ」


「――ならば御本城様に申し上げる。我等北条、織田と組むべきでしょう。織田は今や天下一とも言える程の勢力です。これと敵対するのは北条の民にも苦難を強いる事。それだけは避けねばなりませぬ」


 氏政公の言葉に最初に発言したのは、”闘将”と名高き北条家五色備えの内”黄備え”を率いる北条綱成だった。

 氏政公の父、氏康と同い年であり義弟でもある人物で、氏康が隠居した後も氏政を支えている。

 信頼厚き綱成の影響力は強いのだろう。

 家臣達の多くもそれに同意する。


「……うむ、うむ。皆の意見相分かった。……ならば北条は織田と同盟を結ぼう。氏照、織田との折衝は任せても?」


「承知した。……お三方、宜しくお願い致しまする」


 氏照が頭を下げるのに合わせ、俺達も頭を下げる。


「……そうだ。お主達はこの後何処に向かうのだ? 蘆名か? 伊達か? 佐竹か?」


 氏政公が好奇心を宿した眼でそう訊ねてくる。

 俺は首を横に振り、


「いえ……越後に。……上総介は上杉とも同盟を結びたいと申しております故」


「ほぅ!? 今まで争っていた上杉とも同盟を結ぶか!」


 上杉とも同盟を結ぶという発言に、俄かに北条の諸将等がざわつき始める。


「……然り、に御座います。この日ノ本に太平を齎すには、上杉ともまた、同盟を結ばねばならぬと」


 何を感じたのか、氏政公はしきりに頷く。


「うむ。かの上杉の輝政公は義に厚き人と聞く。かの者と縁を結べたら、さぞ心強いだろうな」


 氏政の言葉を受け、北条の諸将達も複雑な表情を浮かべてはいるが頷いている。

 どうやら北条は上杉を相当買っているらしい。

 いや、それもそうか。

 長年上杉と北条は争ってきたのだ。

 上杉の実力は理解しているだろう。


「ぜひ北条も上杉との縁を得たいモノだ。……そうだ! 上杉に我が一門の中から誰か送り、上杉との縁を結ぼう!! ……お三方、我等が意を、どうか輝政公にお伝えしてくれ! 頼んだぞ!」


 ……若いというか、無垢というか、素直というか……。

 大将としては素直過ぎる人柄と言えるが、まぁそれを北条の将達も好んでいる様なので、俺から何か言うのはしない。


 俺達は苦笑いを浮かべながらもそれを了承した。

 ご機嫌な氏政は顔を綻ばせながら、


「――今日はゆるりと休まれよ。我が国には数多の名産がある。是非とも堪能していってくれ!」


 俺達は有難くその申し出を受け、その後数日はゆっくりと過ごせたのだった。





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