第百四十六話 同盟の為の
1565年 京
最近、俺がやっている事がある。
まぁ最近とは言え、本能寺の乱が終わってからなんだが……。
「――では、今日は以上に致しましょう。……昼後は政務が入っております故」
俺がそう言うと、
「「「「――はい!」」」」
そう溌剌とした声で応じる若い声。
そして彼等は俺に頭を下げた後、部屋を出て行く。
俺は今、次代を担うであろう面々や、将来有望な”軍監衆”の若手や小姓達を相手に勉学を教えていた。
とはいえ、本格的と言えるかと言えばどうかというところだ。
教えるのはこの国の歴史や兵法、海外の話等多岐に渡る。
平成の世で大学生として学んでいた俺が、いつの間にやら教える立場になっていた。
こんな事になった切っ掛けは、信忠様だった。
信忠様や勝三・柊殿の三人は、数年前より俺から兵法や武芸を学んできた。
それを思いだしたのだろう。
信忠様は俺に『若い者達を育てろ』と命じてきた。
その多くが家臣達の子供達の中でも年齢が若い十代前半から十代後半である。
勿論、俺はそれを承諾。
近くの屋敷の一室を借り、若い連中に教える事になった。
つまり、塾やら学校やらみたいなモノだ。
……また一つ、歴史を変えてしまったっ!
まぁこんだけ色々歴史を変えてしまったんだから、今更だけど。
昼餉を食べた後、仕事の為に二条御所に上がると、俺は何故か信長に呼ばれた。
仕方なく、仕事を半兵衛と官兵衛、そして中国から帰還した吉継に任せて信長の元に向かった。
因みに、”軍監衆”の手伝いをして貰っている左近殿は今は兵の訓練をして貰っている。
「……信長ー。来たぞ~」
「応。来やがったか須藤。近頃若い連中に色々と教えてんだろ? 精が出るじゃねぇか」
「信忠様からの命令だ。従わねぇ訳にもいかねぇだろ?」
「やれやれ、一応俺はアイツの父親なんだがなぁ。……俺も敬えよ」
「はっ! お前そういう遜った奴が一番嫌いな質だろうが。何言ってやがる」
お互いに慣れた気安い会話。
もう此奴と知り合って九年の月日が経っているのだ。
……いや、まだ九年、か。
史実の事を考えれば、随分早く天下への道が見えたもんだ。
「……で? 何をしろって?」
「応。……徳川に対して圧力をかける為に周囲を固めておきたくてな。そこで、手前に使者として周囲の国に行って貰いたい。同行者を誰にするかは手前に任せる。好きな奴を連れていけ」
ほう?
周囲の国――ってことは今川や北条、それと――
「まさか上杉とも結ぶつもりか?」
織田と上杉、その関係性は悪いとしか言えない。
なんせ上杉が忠誠を誓っていた足利幕府を倒した張本人である。
しかも一度目の戦である”手取川の戦い”では上杉に織田が敗北して多くの死者を出し、二度目の戦である”魚津城の戦い”では上杉陣営に多大な被害を与えている。
「”天下統一”って事は上杉もに決まってるだろ。まぁ上杉が敵対するのか従うのかはわからねぇが、前に一度上杉の当主と会った事があるだろ? だから使者を手前に選んだんだ」
成程。
まぁ徳川を包囲するんであれば上杉にも協力して貰わないとだな。
以前会ったのは影武者だったけど。
だけど協力して貰えるかなぁ……。
取り敢えず、上杉と姻戚関係にある近衛殿にでも聞いてみるかなぁ……。
「でだ。手前以外にも二・三人程度で使者として向かって欲しいんだ。俺達が如何に本気かを示す為にな。……そこでだ。連れてく奴を手前に決めて貰おうと思ってる。誰を選ぼうがその穴は埋められるから、手前の好きな様に決めな」
ふむふむ。
つまりは使節団か。
なら、なるべく上杉に対して効果的な人物が良いな。
それに直情的に動かず、相手に何を言われようが躱せる人間……。
と、なると……。
「……アイツ等に頼むとするか」
取り敢えず、二人に会いに行くとするかね。




