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第十三話 今川軍追撃戦

「クソッ! 尾張の弱兵めが!」


「――俺は美濃の出よ!」


 織田軍の先鋒を務めた”攻めの三左”こと森三左衛門可成は、その突撃の最中、自らに討ちかかってきた者達の頸、その悉くを槍で突き殺していた。

 まぁ実際に森家は美濃の土岐氏の臣下だったしな。尾張の出ではないわな。

 彼の仕事は先鋒として突撃し、主が敵全てを殺すことだ。

 逃げる敵など二の次である。


「名のある将とお見受け致す! 我が名は四宮左近! 名を名乗れ!」


 そこに槍を構えながら、明らかに将だとわかる鎧を着た男が可成に向かってきた。

 その姿を視認すると、三左は馬を走らせ、四宮左近へと突貫する。


「――我が名は織田家家臣、森家が当主、森三左衛門可成! ”攻めの三左”と呼ばれしこの槍、止められるものなら止めてみよ!」


「三左殿、お相手致す! ――覚悟!」


 そう言うが早いか、左近は槍を扱き、突き出す。

 しかし――


「――ラァッ!!」


「――ガッ!?」


 左近の槍が届く前に、可成の槍がその心臓を突き刺していた。

 左近は突き刺された心臓から血を滴らせながら一歩、二歩と後退し、


「……見事」


 そう言うと仰向けに倒れた。


「――今川が将、四宮左近! この”攻めの三左”が討ち取ったぁ!」


「「「「オオオオオオオオォォォォォッ!!」」」」


 可成の声が轟き、兵士達が戦いながらも声を上げる。

 それを始めとし、数多くの今川方の将が討ち取られ、あちこちで勝ち名乗りが上がっていく。

 徐々に今川方は主である義元が撤退したこともあって崩れ始め、撤退していった。

 信長は好機とばかりに声を荒げ、馬を走らせる。


「狙うは義元が頸ただ一つよ! 決して逃すなよ! そら、掛かれ掛かれ!」


「「「「えい、おう、えい、おう、えい、おう!!」」」」


 武闘派達を筆頭に、織田軍は吶喊しながら一気呵成に追撃を始めた。





 俺は奇妙様を守るため、信長軍の最後尾を走っていたのだが、此処も既に刀と刀が打ち合う音の響く戦場となっていた。

 最初は俺の背中にいた奇妙様だが、刀、槍等が繰り出されて危ない為、最終的には俺の前で背を丸めていた。

 俺はそれを守る為、斬りかかってくる兵士達を片っ端から斬り、駆けまわる。


「奇妙様! 決して頭を上げてはなりませぬぞ!」


「う、うむ!」


 涙声でそう返してくる奇妙丸様――ってかこれ最早泣いてね?

 え、鼻水を啜る音が聞こえてくるんですけど。

 これ絶対鼻かまれてるよね?


 ……ちょ! チーンて! 今チーンて音聞こえた!

 奇妙様ダメ! 鼻かんじゃダメ!

 おいおい、頼むからビビッて小便漏らしたり、血肉の臭いで吐くとかだけはやめてくれよ!?


 そんなことを現実逃避気味に考えながらも、俺は剣を振るう。

 そしてどれ程の時間が経っただろうか、周囲の敵があらかたいなくなり、一旦の休憩で全身汗に塗れた俺が馬上で荒い息を吐いた頃、俺の前で未だに蹲っている奇妙丸様が声を掛けてきた。

その声は非常に小さく、注意しなければ気付かない程だった。


「……のう、須藤」


 若干気まずそうな声に、嫌な気しかしない。


「……何ですかな?」


 恐る恐る尋ねると、奇妙丸様は暫く黙ってから、


「……戦が恐ろしゅうて我慢ならなんだ。……すまぬ」



 ――ちょ!?






 幾度かの追撃により、義元が連れた近衛兵はその数を減らし、義元達はとうとう信長軍に追いつかれた。


「……ふむ、ここまで、か」


 義元はそう言うと、馬を降りる。

 それは降伏の意味ではない。

 寧ろ、此処で断固戦うと言う意志の表れだ。


「――今川治部大輔とお見受け致す! 某、織田信長が馬廻 (騎馬の武士の中で大将の周囲に付き、護衛等を職務とした親衛隊の様なモノ)、服部小平(はっとりこへい)太一忠(たかずただ)! いざやその首級を上げ、我が誉れとせん!」


 そこに駆け寄り、刀を抜いて義元の前に立ったのは信長軍の兵だった。

 既に、大将である義元のところまで敵兵が来るまでに戦況は傾いていた。


「……正しく。我こそは今川治部大輔義元! この頸取りたくば、その刃にて見事討ち取って見せよ」


 義元は静かに腰に差した鞘から剣を抜き、上段に構える。


「――いざ、参る!」


 気合の声と共に、一忠は義元へ斬りかかった。





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