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第百四十二話 戦後の色々

 1564年 京



 京やその周辺地区では戦後の復興が進んでいた。

 明智軍によって襲撃された織田家臣達の各屋敷は直ぐに建て直され、京より逃げ出していた其々の奥方や子供、家人達が呼び戻された。

 当主信長も眼を覚ましたが、療養の為に丹後に留まっている状況であった。


 明智軍との決戦”山崎の戦い”は、織田方の勝利に終わった。

 敵大将明智光秀は逃亡した後、落ち武者狩りにあって死んだのだという。

 須藤は忍達に調べさせたが、そこには戦闘をした痕跡が残っており、恐らく落ち武者と明智光秀とその護衛達が争ったのだろうという事が分かった。

 そこには刀や鎧は無く、返り討ちにされたであろう落ち武者側の得物である鍬等が乱雑に放置されていた。

 更に後日、堺に明智家の家紋が刻まれた鎧が流れてきているとの情報を受け、須藤が部下にそれを買い付けさせて確かめてみると、確かに明智光秀のモノであった。


 そして、明智側の将達はその悉くが捕えられ、処断された。

 山崎の戦いにて明智光秀の重臣であった明智秀満は抵抗の後、光秀の妻子を殺して自刃。

 秀満と共に溝尾茂朝、明智光忠も自刃した。

 更には明智軍として戦った阿閉貞征・貞大父子、山崎片家や荒木行重、妻木範賢等が降伏し、明智家重臣であった斎藤利三が逃亡先の堅田にて捕縛された。


 生き残った敵将達は斬首されたりはしなかったが、領地や城の没収によってその権威を減らしていく事になる。

 だが、問題も起きていた。

 細川忠興の妻、明智光秀の娘である玉子である。

 明智の血族が殺され、或いはその家格を落としていく中、光秀の娘である玉子に対して何の咎めも無い事はおかしいと言う意見が上がったのだ。

 それと『細川家の当主の妻には相応しく無い』という事も。

 これに対し、当主である信重は家臣達を集めた。


「……さて、皆の意見を聞こうか」


 家臣達の意見は割れていた。

 離縁し、処断するべきであるという者。

 離縁はしなくても良いという者。

 静観している者。

 本来ならば、この様な事で評定を開く事は無い。

 だが、ある意味では信重にとっても大事な問題なのだ。


「――謀叛者の娘です。彼女のみ処断無しでは納得せぬ者もいるでしょう」


 将の一人の言葉に、離縁するべきだと主張していた者達が同意する。

 忠興は今にも斬りつけんばかりの怒りの表情を浮かべながらも手を強く握り耐えており、藤孝はいつも通り笑みを浮かべておりその心情を窺い知る事は出来ない。


「――ならば」


 だが、離縁すべきであるという家臣達の声を、信重自身が遮った。


「……敵対した者の家の娘であるから処断するとするならば、私の婚約者である松もそうあるべきであると?」


 その言葉に、家臣達は黙った。

 信重の婚約者である松姫は、織田の最大の障害であった武田の娘だ。

 今は確か八王子にいるが、信重とも文のやり取りが続いており、大変仲が良い。

 敵対した家の――しかも既に本流が滅んだ家の――娘を当主の妻とする事に対して、反対する者がいないとは言わないが、信重が松姫を大切に思っている事を皆が知っていた。


「――若様としては忠興と玉子の婚姻は続けて良いとお考えなのでしょう?」


 静まった場の空気に似合わぬ緊張感の無い声でそう口にしたのは須藤だった。

 信重は須藤の方を向き、頷く。


「某としても、忠興と玉子との婚姻は認めても良いと思いまする。それに、此度が戦で細川家が近しい関係にありながら明智に付かなかった事でどれ程有利になったか。その後の信長への救援も然り。細川家の救援が無ければ、殿は死んでおられた。……『離縁はしなくとも良い』」


 そこまで言ってから周囲を見回し、


「その程度認めたとて褒賞としては足りぬ程かと思われますが……皆様は違うとお思いか?」


 首を傾げた。

 その言葉に、それまで反対していた者達は反論出来ない。

 そもそも、最近の須藤は地位や本人の意思がどうあれ、その発言力と与える影響は織田家の家中でも高い。

 その須藤が認めたのだ。


「ふむ。では拙も離縁しない事に賛成致しましょう」


 松永がそう言うと、それまで黙っていた家臣達も次々に同意する。

 結局のところ、信重と須藤の言葉に、信長がそれに賛同した事で、忠興と玉子の婚姻関係の継続が認められたのである。


新作の方も見て頂けると嬉しいです。

平に、平にお願いします(しつこい)

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