第百四十話 明智を倒す為に
1564年 富田 【視点:須藤惣兵衛元直】
「――これより、対明智の軍議を始める! ”織田の三兵衛”!! 主等の知略、披露せよ!!」
「「「――はっ!!」」」
信重様の下知に、俺達”軍監衆”は頭を下げて応える。は
最初に話し出すのは”軍監”である半兵衛だ。
「此度が戦、恐らく戦場は――山崎になりましょう」
摂津国と京のある山城国との境にある土地が山崎だ。
「しかしながら、今は明智の情報が少なすぎる」
半兵衛の言葉を、官兵衛が引き継ぐ。
「そこで先ずは丹後を立ち、富田に入り、そこにて最終の軍議を開きたく」
「その間、我が配下の忍衆を動かし、京の状況や明智軍の事等、集められる状況を集めさせまする。……富田にてそれも報告致しましょう」
三つ者・伊賀・甲賀……伊賀の少数の忍は徳川に仕えているものの、上杉の軒猿や北条の風魔に比べても何ら遜色はないどころか、その数も多く、出来る事も幅広い。
恐らく、天下最大の諜報部隊である事は間違いない。
……というか、俺いつの間にか忍衆を管轄する立場が板についてしまったな。
まぁ文句はないけれども。
俺達の説明に、信重様は頷き、
「相分かった。……父上は丹後にて療養して頂く。藤孝、父上の事を頼めるか?」
「無論に御座います。城には守将を残しておきます故、ご安心なされ」
「頼む。……須藤、長秀には富田にて合流することを伝える書状を送れ」
「――承知」
俺にそう指示すると、信重様は一同を見渡し、
「――良し! 先ずは富田に向かうぞ!」
「「「「――はっ!!」」」」
丹後を出立した俺達が富田に到着したのは、それから数日後の事だった。
その間に俺は忍衆を動かし、伊賀忍には京の情勢を、甲賀忍には周辺諸国の有力者達の動きを、そして三つ者達には明智軍の情報を集めさせた。
元から京周辺に潜伏させていた者達が事前に調べていてくれたおかげで、情報も早く揃った。
更にその数日後、丹羽殿の軍も合流した事で、戦力差的には圧倒的に有利になっている。
そして集めた情報を”軍監衆”で精査し、軍議となった。
「……さて、”軍監衆”。集めた情報の報告と、此度が戦の差配をせよ」
「「「――はっ!」」」
若干前回の軍議の意味があったのかと思ってしまわなくも無いが、まぁ様式だから仕方が無い。
「忍が集めてきた情報によると、明智軍は乱の後、京の治安を維持しているとの事。若狭の武田元明や京極高次、奥丹後の一色等に協力要請をした様ですが、様々な言い訳を使われて拒否された様です。明智軍には現在、明智家一門と家臣団、旧幕臣達によって構成されております」
史実において明智側として参戦した将達が、揃って明智軍からの要請を断ったのだ。
恐らく、信長や信重様が生き残った事で変わった事の一つなのだろう。
特に、若狭武田も明智とは姻戚関係だった筈である。
それに史実では奥丹後の一色氏が明智側に着いた事で細川が動けなくなるのだが、それも無い。
完全に明智は窮地に追い込まれている。
いや、詰んでいるといっても良いかもしれない。
これから俺達との戦があり、遅ければ柴田殿や滝川殿等織田家中でも武闘派揃いの精鋭達が越前からやって来る。
明智が勝つには、柴田殿等が到着する前に俺達を倒し、信長・信重様両名の頸を取るしかない。
ここまでやってしまったのだ。
許されるなんて思っていないだろう。
「……申しておりました通り、恐らく敵は守りにくく攻めやすい京での戦を避け、天王山と淀川には挟まれた要害である山崎に向かうでしょう。此度が戦、先に山崎の地を占拠した者が勝利致しまする」
半兵衛の説明通り、この戦は先に山崎を抑えた方が勝つ。
天王山という言葉が有名だが、実際に天王山を取った事が勝敗の分かれ目となった訳では無い。
半兵衛の説明を、官兵衛が引き継ぐ。
「先ず、先鋒隊が山崎後を占拠、その後隊を三つに分けまする。左翼・右翼は天王山の麓、中央では天王山中腹を攻めて頂きます」
さて、俺が説明する手順だ。
「申し渡す! ……先鋒隊を中川清秀・高山右近」
「「――はっ!」」
「右翼に池田恒興・松永久秀・久通! それと某ですな」
「「「――はっ!」」」
「左翼には黒田官兵衛・木下秀長・森可成・長可!」
「「「「――はっ!」」」」
「本陣を宝積寺とし、大将を信重様。その護衛を一門衆と、それに加えて各方面への援軍を丹羽衆・木下衆にお任せ致す」
「「「「――ははっ!!」」」」
「先鋒隊は明朝には出発し、疾く山崎の地を占拠せよ! ……以上になりまする」
俺はそう言って信重様に頭を下げる。
信重様は俺に頷き、
「――皆、天下が見えてきておるここで明智に負けるわけにはいかないのだ。……頼むぞ!」
「「「「――ははっ!!」」」」
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