第百三十七話 再会
今日、新作を投稿したいと思います。
1564年 丹後 【視点:須藤惣兵衛元直】
俺が丹後に到着したのは、本能寺での光秀の謀反から一日経ってからだった。
信長の無事は途中で忍が報告してくれたので、一応急いで来たってだけだが。
「――直也殿」
「柊殿!」
話すのはそれ程振りだろうか、俺が門を潜ると、来ることを知らされていたであろう柊殿が駆け寄って来て、俺の目の前で立ち止まると、
「お久しゅう御座います直也殿。御無事で何よりです」
そう笑みを湛えて頭を下げる。
疲れも見えないし、大きな傷も無いようで、一安心だ。
「あぁ。……柊殿も無事で何よりだ。……書状通り、信重様を守ってくれたらしいな。……有難う」
「いえ、若様をお守りするのは侍女としての役目ですから」
「兵の指揮も良くやってくれた。……どうだった? 実際の戦場で兵を動かしてみて」
「いえ、私は雑賀衆と忍衆の指揮だけで手一杯でした。……ですが、教えて下さった直也殿の顔に泥を塗るような無様な真似はしなかったとは思います。軍全体の指揮は左近殿がやって下さいました」
うむ、流石俺の教え子。
初めての戦場でもちゃんと動けたみたいだな。
報告に来た奴等からも評価は高かったし、ホントに女なのが勿体無いぜ。
それに左近殿も要請に応えてくれた様だ。
再会の挨拶もそこそこに、俺達は歩き出す。
「……信長の容体はどうだ?」
「はい。現在は寝ておられますが、命に別状は無いようです。若様も無事ですし、直也殿の考え通りに進んでいると思います」
「じゃ、先ずは信重様に挨拶するか」
「はい」
俺は柊殿の案内で、信重様のいる部屋に向かった。
信重様への挨拶を終えた俺は、柊殿を残して城を散策していた。
寝ている信長に会いに行ってもしょうがないしな。
「――須藤殿」
後ろから声を掛けられ、振り返ると三人の男が立っていた。
「弾正殿、与一郎殿……それに左近殿もか!」
俺の悪友――と向こうは思っているらしい――松永弾正に、これまた友人の様な間柄の細川藤孝、そして俺の要請に応えてくれた島左近が、並んで此方に歩いて来た。
……今更ながらに見ると無茶苦茶凄いメンバーだな。
というか、一応今は両名とも織田家臣だけど、筒井と松永って長年大和の領地を争った敵同士じゃん。
当人達は気にしてないみたいだけど……。
「左近殿、此度が要請に応えて頂き、真忝い。良くぞ来て下さった。信重様をお守りいただいた事を含め、感謝致します」
取り敢えず、二人は置いといて、左近殿に感謝の意を示す。
それに対し、左近殿は笑みを浮かべる。
「いやぁ……そろそろどっかの家に雇って貰おうと思っていたところだったんで、此方の方が感謝したいくらいでしたよ。……お久し振りです。須藤殿」
そう言って右手を差し出して来たので、俺もそれに応じる。
そして此方をニヤニヤ笑いながら見ている二人にも顔を向け、
「弾正殿と与一郎殿も、俺の文通り動いてくれた事、感謝する」
そう頭を下げる。
「ククク、構いませぬよ。拙とて織田の家臣ですからなァ」
松永も与一郎殿も笑ってくれるが、俺は気になっていた事を訊ねる。
「……与一郎殿、玉子殿は如何なさるおつもりか?」
細川与一郎藤孝の息子、忠興の妻である玉子殿は明智光秀の娘だ。
彼女に罪が無いとはいえ、一人の罰が一族郎党にまで及ぶ事の多い戦国時代である。
少なくとも、玉子殿や忠興、与一郎殿に対する陰口や悪口はあるだろう。
「忠興も玉子殿も、愛し合っているのです。離縁はさせぬつもりですよ。……まぁ風当りは強くなりましょうがね」
そう言って与一郎殿は笑う。
本当に逞しいというか、周りを気にしないというか……。
戦国乱世を生き抜いた人間は、これくらいでなければいけないのだろう。
出来る事があるならば、助けたいものだ。
俺がそう考えていると、
「それよりも須藤殿、殿より明智征伐の命が下されましたぞ」
髭を扱きながら松永がそう言ってくる。
「……そうか。予想通りではあるな」
既に秀吉達には軍を再編させるようにとは伝えてあるし、忍達には信長や信重様の情報は自分を通さずに官兵衛達に伝える様に指示はしていたので、備中でも今頃”中国大返し”の支度をしている最中だろう。
「なら、我々も戦支度をしなけりゃいけませんな」
左近殿の言葉に、俺は頷く。
明智光秀が敗北した”山崎の戦い”――有名な言い方をすれば”天王山の戦い”。
それの舞台は京のある山城国と摂津の境にある天王山だ。