第十二話 今川本隊急襲
義元って公家文化に染まった人物みたいに言われがちですが、作者としてはこっちなイメージ。
”東海一の弓取り”なんて言われてたんだから絶対強いに決まってるよね。
桶狭間山の麓にいた今川本隊の先遣部隊を蹴散らした俺達織田軍は、今川本隊が桶狭間山で休息を取っているという報を受け、更に馬の速度を上げて山を駆けていた。
「……おぉ、奇妙。無事であったか!」
漸く信長に追いついた俺の後ろにしがみついている奇妙丸様を見て、視線をチラリと向け、そう一言言っただけで直ぐに前を向いた。
「は、はい! 父上!」
奇妙丸様もそれを気にする余裕はないのか、俺に必死にしがみついて声を張り上げる。
その表情は泣き顔にも近いが、辛うじて泣くのを我慢できているらしかった。
「……これよりは更に激戦となる。須藤、奇妙をしかと守ってやってくれ」
「承知仕った」
「――殿!」
俺が馬上ながら頭を下げると、そこに、後ろから駆けてきた男が信長に頭を下げ、声を掛けてくる。
「三左か!」
声を掛けてきたのは森家の頭領、森三左衛門可成だった。
尾張統一前、敵の大将であった織田信友を討つという功績を上げた、”鬼柴田”や”米五郎左”にも匹敵する武勇を持つ猛将である。
まぁそれに加えて”戦国四大DQN”の一人として有名な息子、森長可の父親だ。
やばい逸話の多い息子だから、どんな父親かと思ったら、非常に出来た人間である。
武勇は勿論、内政にも秀でていたとか。
……どうして息子がああなったのか理由が知りたい。
「この先に今川赤鳥紋が見えておりまする! 殿、某等”森衆”に先鋒の大役を!」
見ると、雨の中でも今川の軍旗が辛うじて見える位置まで来ていた。
「この心意気や良し! ”攻めの三左”の名と武勇、今川に見せてやれ!」
「忝し!」
信長が許可を出すと、自分の後ろで駆けている部下達に振り返り、
「――手前等ァ! 織田が一番槍はぁ、この”森”が頂いたぁ! 今川の腰抜け兵士共は、全員ぶっ殺してやれ! そぉら、突っ込めや!」
「「「「イェァッハァー!!!!」」」」
言うが早いか、森家が奇声を上げながら更にその速度を上げ、敵目掛けて突っ込んでいった。
えぇ~……やっぱり血筋じゃねぇか。
あれか、頭リーゼントにでもするのかアンタ等は。
そんな世紀末な感性をお持ちの森家を先頭に、織田軍が今川軍本隊へと襲い掛かる。
「奇妙様! 某等も遅れぬよう駆けまする! 振り落とされぬよう、しかとしがみついて下され!」
俺も遅れない様、後ろで俺にしがみつく奇妙丸様に言う。
「う、うむ!」
「――では、某等も参る!」
奇妙丸様の返事と、俺を掴む力が強くなったのを確認してから、俺は馬の腹を蹴り、皆と共に今川軍へと突っ込んだ。
雨の中、馬を降りていた今川義元の耳に、遠くから聞こえる蹄の音が聞こえてきた。
やがて、その音は近くなり、その姿を視界に捉え、臣下達の間に動揺が走った。
「――て、敵襲! 敵襲~!!」
「織田の奴等が攻めて来おったぞ!」
「早う武具を構えよ!」
休憩と言われ、完全に身体も気を休めていた為、織田軍の奇襲を受けた時にはまだ戦支度が済んでいなかった。
「うぬの方から来おったか”尾張のうつけ”よ。……ククク」
慌てて支度を始めた臣下達を他所に、鎧を纏い、刀を腰に下げた義元の口には笑みが浮かんでいた。
口調も、先程とは打って変わっていた。
幾ら公家文化に染まっていたとて、彼は武家。
しかも三つの国を治める大国の頭領である。
茶を飲み、花を愛で、蹴鞠をする等数寄を好む一方、鉄と鉄が打ち合い、血と肉に塗れる戦もまた、彼は好むのだ。
義元はひとしきり笑った後、大音声を上げる。
「――者共! 幾ら奇襲とて敵は此方より寡勢よ! さぁ、勇猛なる今川が将兵よ! 斬り、刺し、踏み潰し殺すが良い! 我が征く道を、織田が流す血で染め上げよ!」
その大音声に、今川の兵士達は何とか動揺を振り切って得物を構える。
しかし、その時には既に織田軍の騎馬兵が得物を振るいながら駆け抜けていた。
義元は無惨に殺されていく自軍の兵士を見ながら、
「……先ずは見事。しかし、まだこれからよ。さぁ、織田の。我が兵を蹴散らし、我が元に来るが良い。……我ととくと仕合おうぞ」
そう言って、義元は周囲の兵に囲まれながら撤退を始めた。
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