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第百三十一話 諫言と助力

明けましておめでとうございます!

本年も本作、一週間程で投稿するであろう新作の方も宜しくお願いします!!

 1564年 京 妙覚寺



 信長救出の為に信重とその家臣達が妙覚寺の門を抜けようとした時、遠くから人の乗る馬が近付いてきた。

 その手綱捌きは歴戦の武者の如く慣れたモノだ。

 将達は武器を構える。


「――若様!」


 だが、聞こえてきたのは女性の声だった。

 馬に乗って駆けてきたのは――


「――柊?」


 信重と共に須藤から兵法や政務・武芸を学んだ、信重にとって勝三と並ぶ長い付き合いである幼馴染みの様な関係にある柊であった。

 背には弓、腰には剣、馬の背に鉄砲を下げていた。

 その後ろから、遅れて鉄砲を持った”雑賀衆”の一隊が到着する。

 柊は馬を走らせ信重の元に駆けてくる。


「どうしたのだ柊? お前は確か母上と共に御所にいた筈だが?」


 信重の問いに、柊は馬を降り、平伏してから「はい」と頷く。


「……明智が謀反を起こしたと聞き、若様にお伝えしたい事があり、此処に参りました」


「子は……勝千代はどうした?」


「はい、大丈夫です。既に御所にいる他の女中に任せました。間諜等の心配のない人物です。奥方様や近郊に屋敷を持つ将達(かたがた)の奥方様は、既に京を立ち、避難なさっております」


 柊の言葉に、信重達は安堵の溜息を吐いた。


「そうか。……して、お主がここに来たのは何故だ?」


 信重の質問に、柊は信重の眼をしっかりと見据え、


「若様、今は京より離れる事を優先して下さいませ」


 そう答えた。




「殿を見捨てよと申すか!」


「所詮は戦場に立たぬ女の言い草よ!」


 信重の後ろに控えた将達が柊を罵る。

 だが、柊の眼は信重を見ており、周囲一切が眼に入っていなかった。

 柊はただジッと信重を見つめる。

 その眼に、信重は己が師である須藤が重なって見えた気がした。


「……訳を申せ」


「はい。既に本能寺は明智に囲まれております。その様な場所に今から向かおうとしても、多勢に無勢。決して殿を助ける事は出来ぬと断言致しましょう」


 柊の発言に、一部の将は顔を青ざめさせ、一部の将は怒りに更に顔を赤くした。

 前者は本能寺が囲まれているという事実から、後者は信長を助ける事は出来ないという柊の断言から。


「……では父を――殿を見捨てよと?」


「――いいえ」


 柊は否定する。

 そして懐より文を取り出し、大事に胸の前に持つ。


「……これは我が夫が私に送った文です。『もし、自分がいない間に京に変事が起きた際、自分の権限の全てを私に委ねる』と」


「……須藤がその様な事を?」


 信重は驚く。

 須藤の持つ権限全て――つまりは、彼が抱える数多くの忍や、雑賀衆等の戦に慣れた歴戦の者達の指揮権が与えられている、という事だ。

 それはこの大事において、彼女が重要な戦力を握っている事を示している。

 そして、この京に起きている事、その全てを把握出来る立場にあるという事も。


「加えて、京の各地に伊賀・甲賀・三つ者の忍衆、雑賀・根来の鉄砲衆を配置しており、変事があった際に直ぐに対処出来る様な手立ては整っております。現在、本能寺西方より忍衆と鉄砲衆にて殿をお救いしている最中に御座います」


 柊の報告に、周囲の兵達もおぉ、と歓声を上げる。

 それは、現状で僅かに見えた希望だった。


「私に与えられた役目は、織田家次期当主にして、殿に”もしも”があった時の大将である若様を何としても京より退かせる事に御座います。……若様、本能寺で殿を救い出せなかった場合、どの様になさるおつもりでしたか? ……死ぬおつもりでは、御座いませんでしたか?」


 柊の怜悧な眼が、信重を射抜く。

 そのつもりだった信重は思わず柊から眼を反らした。

 柊はそんな信重(幼馴染み)を見て、溜息を吐く。


「……潔いのは武士(もののふ)としては良いと思いますが、先ずは御身が生き残る事を考えなされませ。殿に加え、御身が死ねば天下はまた混沌に戻ってしまう事が考え付きませんか? 我が夫は何度も私達に言い含めてきた筈です。……『先ずは生き残る事を考えよ』と。『目先を見ず、その先を見よ』と」


「……う……うむ」


 悪戯を怒られる子供の様に眼を反らす信重と子供を叱りつけるが如き柊。

 その関係性は、須藤のこの時代とは少しズレた教えの為か、他の将達からは奇妙に見えた。

 だが、当の二人はそんな事等気にしていない様だ。

 しかし、それを是としない者もいる。

 一人の将が柊に近付き、無礼を注意しようとする。


「若に対してなんと無礼な――」


 ヒュン! ――カン!


「――ひっ!」


 何かが風を切る音と、甲高い音。

 柊は男の方を一瞥し、背に背負っていた弓を持ち矢を番えると、瞬時に放ったのだ。

 弓から放たれた矢は、見事近付いて来た将の兜の装飾に当たった。

 まさか当たるとは思っていなかった将は腰を抜かしてしまう。


「……私は夫に、殿に誓ったのです。若様の身をお守りすると。……女であるからと余り嘗めないで頂きたい。若様、決断を」


 柊は将を一瞥し、再び信重の方を見る。

 信重は全身の力を抜くようにふぅと息を吐くと、笑みを浮かべる。


「……わかった。ならお前の言う通りにしよう。……柊、差配は出来るか?」


 信重は柊に問うが、柊は申し訳なさそうに首を横に振った。


「策を考えたり、鉄砲隊や少数部隊を率いるなら可能ですが、ここまでの人数――しかも騎馬部隊と歩兵部隊の混成部隊となると後方での差配は出来ましょうが、隊を率いる事は出来ませんでしょう。それに、女である私が差配をするなど、認めぬ者も多いかと……申し訳ありません」


 そう頭を下げる。

 信重は構わないと慰めるが、どうすれば良いのか悩んでしまう。


「なら、私がやりましょうかい? 織田家次期当主、織田信重殿」


 そこに、声が掛かった。

 暗闇から現れたのは見た事も無い男だった。

 だが、雰囲気は戦慣れした歴戦の者独特の()()を纏っており、使い古された鎧もそれを助長した。


「……お主は?」


 信重は、突如現れた男に尋ねる。

 男は立ち止まり、信重に頭を下げ、名乗る。


「私は元筒井順慶が家臣嶋勝猛――いや、島左近清興。縁あって助太刀させて頂きましょう」


 男――島左近はニヤリと得意げな、それでいて飄々とした笑みを浮かべた。




久々に颯爽登場!

……という訳で島左近の登場です!


というか、柊の登場って久しぶりですな。

時系列的には前出てきた時から多分一年は経ってる筈。



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