第百二十八話 明智光秀の決意
短めですがご了承下さい。
1563年 丹波 亀山城
明智光秀はその日、重臣達を集めていた。
「……殿より、『中国出陣の陣容や家中の馬を見たいので、京本能寺へと来るべし』という下知が届きました。これより我等は出陣し、京へ向かいます!」
「「「「――はっ!!」」」」
「支度が出来次第、亀山の東にある柴野に集まりなさい。利三、委細は任せます」
「――はっ!」
明智家重臣斎藤利三に命じた光秀は、そう言って評定の間を去った。
申の刻 (午後四時頃)より準備が出来次第亀山城を出立し、柴野に明智全軍が集まったのは酉の刻 (午後六時頃)の事であった。
その後、それから一町半程離れた場所で光秀は再び弟である秀満に命じ、重臣達のみを集めた。
集まったのは秀満、丹波八上城城主明智光忠、重臣斎藤利三、明智五宿老の一人藤田行政である。
「……光秀様、我等のみを集めるとは如何な用に御座いましょう?」
家臣達が光秀に尋ねると、光秀は今回の真実を告げた。
「……私はかつて将軍義昭様にお仕えし、将軍家再興に尽力する為に全てを捧げると誓った身でした。しかし、そうでありながら私は将軍家滅亡の一翼を担ってしまった。……ですが、将軍義昭様より『この身が信長公に滅ぼされたならば、光秀が信長を討て』という文を頂いてあったのです。……今までは私の決心がつかなかった故、それを成せませんでしたが、漸く決心がつきました」
光秀の話に一切の合いの手も入れずに聞き入る重臣達の顔を見渡し、光秀は宣言する。
「――時は来ました。将軍家の跡を継ぎ、私がこの天下に静謐を齎したい。その為に仇敵織田信長を、京本能寺で討ちます! これは、今は亡き将軍様の、最後の命です! 皆、逆らう事は許しません。これに逆らう者は斬り捨てます」
普段温和で、礼儀正しく、家臣達にも優しい光秀の冷酷な言葉に、家臣達は本気なのだと理解する。
そして、最早それを止める事は出来ないという事を。
「……兄上がそう命じるのならば、家臣たる我等はそれに従うのみ」
弟の秀満が、そう口にする。
「……勝って天下を取るか、負けて”謀叛者”の誹りを受け、頸を晒すかのどちらか、という事ですな」
光忠も、決心がついたと頷く。
その他の家臣達も、覚悟を決めて頷いた。
「……有難う。貴方達の様な家臣を持てた私は果報者です」
感動を堪える様に瞑目した光秀は、家臣達に命じる。
「――明智軍出陣! 仇敵、織田信長と嫡子織田信重を討ちます!」
「「「「――はっ!!」」」」
明智軍総勢一万三千、京本能寺に向け進軍開始。
備中 高松城 【視点:須藤惣兵衛元直】
備中高松城は水攻めによって落ち、遅れて到着した毛利軍の援軍も来た甲斐なく、毛利との間に和睦の話が進んでいた。
織田が毛利に申し出たのは、高松城城主清水宗治の切腹だった。
俺が知っているのはそれまでだ。
俺は明智が京に向けて動き出した事を知るや否や、半兵衛や官兵衛・吉継達に後を任せ、報告を齎した忍及び連れてきた雑賀衆の一部と共に、京へ戻る為に馬を走らせていた。
だが、歩兵も含まれた手勢で史実の秀吉が行った”中国大返し”が出来る筈も無く、京に到着するには四日以上は掛かるだろう。
それまでに間に合えば良いのだが……。
頼む! 何もないで終わってくれ!!
俺は急ぐ気持ちを押し殺して、馬を走らせた。




