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第百二十話 武田の選択

 仁科盛信等が籠った高遠城が落城し、鳥居峠にて武田勝頼等武田本隊も木曾・徳川連合軍によって敗走した。

 武田本隊は諏訪での抵抗を諦め、甲斐に新しく建てた新府城に籠った。


 織田家嫡男織田信重率いる織田軍は諏訪に進軍、武田より寝返った木曾義昌を信濃の要衝である深志城へ向かわせると、数日後には吉報がもたらされた。


 武田一門衆であり、穴山氏七代当主である穴山梅雪こと穴山信君が武田より離反、徳川へと通じ、織田軍に寝返ったのだ。

 武田一門衆である穴山梅雪の離反は、敗戦が続き劣勢に追い込まれている武田に、更なる混乱と動揺を齎した。




 甲斐 新府城



 新府城に撤退した武田勢の意見は、二つに別れていた。


「ここは徹底抗戦するべし!」


「然り! 最早敗北は必然。なれば籠城し、命果てるまで!」


 武田騎馬軍団を率いる信玄の頃からの将である馬場信春や内藤昌豊等は徹底抗戦を主張。

 反対に、長坂や跡部等勝頼の代より重用された者達は数的不利を理由に、小山田信茂が城主を勤める岩殿城まで撤退することを主張した。


「殿が死ななければ良いのです。ここは小山田殿がおられる岩殿城まで撤退するが良いかと」


「犬死は唾棄すべきもの。……此度は負けましたが、雌伏の時を経て再び立てば良いでしょう」


 構図としては古参対新参だが、究極的に言ってしまえば『武士としての意地を見せる』という建前で現状を諦めて死を望むか、『逃げ、時を経て建て直せば良い』という名目で恐れをなして逃げるかのどちらかなのだ。

 だが、ここで長坂が口を開いた。


「ならば、殿が岩殿城に無事に辿り着く為、馬場殿等が時間を稼いで下されば宜しいのでは? 主君を命を懸けて守るのです。武士として、これ以上ない誉れであると思いまするが。……殿、如何なさる?」


 その場にいた者達の視線が、一斉に上座に座る勝頼に向く。

 先の戦に加え、此度の戦での敗戦。

 しかも、織田軍に敗北するならまだしも、裏切った木曾と、陪臣でしかないと考えていた徳川によって撃ち散らされたのだ。

 元より父を超えなければというプレッシャーを感じ、押し潰されそうになっていた勝頼である。

 此度の戦で、そのプライドを砕かれたのだ。


「……勝手にせよ」


 そう言うと、上座の間から去ってしまった。

 評定の場に残った将達は、顔を見合わせるが、その空気を破ったのは長坂達だった。


「では、馬場殿等は手勢を率いてここ、新府城にて織田軍を待ち構え、殿が岩村城まで逃げる時間を稼ぎなされ」


 馬鹿にするようにそう言うと、長坂等勝頼に近しい者達は揃って評定の間を去ってしまった。

 残った将達の面持ちは、沈痛なモノだった。

 信玄公が存命だった頃、自分達は”戦国一”の誇りを胸に、戦場を駆けていた。

 北条・今川・上杉……並居る強敵達と互角以上に戦ってきた。

 その誇りと自信があった。

 だが、それがどうだ。

 今やその権威は衰え、滅びようとしている。

 それがたまらなく――悔しかった。





【視点:須藤惣兵衛元直】



 俺達は軍を離れ、またまた別行動をしていた。

 今頃、織田軍は甲斐へと攻め入る準備が整え終わっている頃だろう。

 俺達は馬をただただ走らせていた。

 立てている旗は武田のモノ。

 着ている鎧等もそうだった。

 まぁつまりは偽装である。

 これで逃げる武田軍に見えている筈だ。


「――須藤殿。相手方、『承知した』との由!」


「そうか。苦労だった」


 とある場所に使いとして行ってくれた者を労う。

 これで仕度は整ったって訳だ。





 ???



 とある場所では、とある男が家臣達を呼んで話していた。

 織田方に加わっている徳川家康である。


「……では、そろそろ始めようか。……既に書状は?」


「――ハッ! 各方面に既に送っておりまする。後は相手からの返答次第に御座います」


「殿、真に動くのですか」


「そうだ。最早我等に猶予無し。かの方からも要請は来ておる。今から動かねば、ただただ呑まれるのみ! 皆、頼んだぞ!」


 須藤が知りながらも手を出せぬところで、大きな脅威が動き始めていた。





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