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第百十九話 高遠城落城

 1563年 信濃 高遠城



 ドォン! ドォン!


 青空に、地響きの様な轟音が響く。

 数に勝る織田軍は、とうとう高遠城の城門に取り付き、攻城兵器を使って突破しようとしていた。

 森衆及び俺は、今か今かと突入の時を待っていた。

 空中には引っ切り無しに矢が飛び交い、織田軍の方からは炮烙玉も投げ込まれていた。

 そして、その時は訪れる。


 ドオォォォン!!


 一際大きな音がなり、城門が崩れると、勝三は声を張り上げる。


「――全軍、突入するぜ! 俺について来いよ!!」


「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」」」」


 崩れた扉から、織田軍が城内に雪崩れ込んでいく。

 勝三は先頭に立って槍――人間無骨を片手に百段に乗って駆け出す。

 というか、部隊の長が一番先頭で突入するなよ。

 お前、井伊直政か――ったく!!


「――全員森衆に遅れるなよ! 数で圧し潰せ!!」


 俺も声を張り上げながら、刀を抜く。

 ……というか、刀なんて久しぶりに実戦で抜く。

 ずっと”雑賀衆”と一緒に鉄砲での奇襲ばっかだったからな。

 一応鍛錬はしていたけどさ。

 俺を追い抜いていった織田軍の兵士を追い抜かし、城内へと突入していった。




「――はあぁぁっ!!」


「ぎゃあ!!」


 城内に突撃した後、馬から降りた俺は近くにいた武田の兵士を斬り伏せる。

 周辺には生きている武田の兵士はおらず、城の内部に籠っているらしい。


「――状況は!」


 近くの兵士に尋ねると、兵士は返り血を拭いながら報告をする。


「はっ! 現在森殿等が城内部に侵入しております。松姫様は未だ見つかっておりません」


 すると、遠くから


『――小山田大学助討ち取ったり!!』


 という声が響き、それが伝言ゲームの様に伝わってくる。

 小山田大学助は佐久郡内山城の城代であった兄と共に高遠城に入った将の一人だ。

 武田軍の中では旗本として三十五騎を率いたという。

 この攻城戦における敵の大将の一人だ。

 その後矢継ぎ早に内山城城代で、大学助の兄である小山田昌成も討ち取ったという報せが届いた。

 残るは仁科盛信と松姫様の保護か。

 先頭は森衆や団衆等の武闘派に任せば良いか……ふむ。


「どうやら終わりそうだな。――兵の一部は城の外で松姫様の捜索をせよ! それ以外の兵は城内をくまなく探せ! 怪我を負わせるな! 必ず保護せよ!!」


「「「「――はっ!!」」」」





 一刻後、高遠城城主仁科盛信を討ち取ったという報せ、松姫様を保護したという報せを聞いた俺は、報告しに来た兵士に松姫様がいる部屋に案内されていた。

 兵士はとある部屋の前で止まる。


「――此方に」


「おう。……失礼致しまする」


 俺は一言そう言うと、部屋に入室する。

 中にいたのは三人の娘、その前で静かに正座している少女と言っても良い年齢の女性。

 抗う様子も無く、その少女は怯える娘達を庇うかの様だった。


「――お初にお目に掛かりまする。……松姫様に御座いますね?」


 少女は、俺の方を向くと静かに頷く。

 俺は即座に平伏の姿勢となり、頭を下げる。


「織田家”軍監衆”須藤と申しまする。此度命により、松姫様をお迎えに参りました」


「……迎え、ですか」


「はっ! ……織田家嫡男信重より、『丁重にお迎えせよ』との命により参りました」


 信重様の名を聞いた一瞬、松姫様は目を伏せる。

 何処か戸惑っている様な態度だった。

 まぁ婚約者だった人間の名前を聞けばそうなるだろうし、敵対した今『丁重にお迎えせよ』なんて命令があったなんて聞いたら戸惑うか。


「……無論、御身の身の安全は某の名と地位に誓って保障致しまする。織田家次期当主となる信重様の奥方様となる方ですからな」


 あの後、信重様から『我が妻となる女性を何としても保護せよ』という命令が届いた。

 何度も何度もしつこいと思ったのは内緒だ。

 ……まぁそれは兎も角、つまり信重様は松姫様を妻として娶る気であるという事だ。

 敵国の、それも滅ぶであろう武田の姫である。

 家中からは心無い言葉も聞こえてくるだろうことは眼に見えている。

 だが、それでも娶る覚悟をしているらしい。

 まさかのぞっこんらしい。

 俺の言葉を聞いた松姫様は、まさかの言葉に眼を見開いている。

 俺はそれまでの真面目な表情を崩して笑い、


「――どうやら若様は貴女様に心底惚れておられる様です。まぁ頑固なところは信長に似たのでしょうが。……っと、御無礼をお許し下され」


 直ぐに表情を戻して頭を下げる。

 チラリと松姫様の方を見ると、俯く顔に様々な感情がない交ぜになった表情を浮かべていた。

 だが、顔を上げた時には、凛とした表情に変わっていた。

 そして後ろの三人の娘の方を一瞥し、娘の手をしっかりと握る。


「……今はまだ会えません。私とて武田の女。”織田に嫁ぐ者”としてではなく、”武田の女”として家の行く末を見とう御座います。……信重様にはそうお伝え下さい」


 その覚悟を宿した顔を見て、俺は内心降参する。

 ホント、似た者同士だと思うね。

 多分、これ以上何を言っても頑として譲らないだろう。


「……相分かり申した。では、しかとそうお伝えいたしまする。……何方に向かわれるおつもりか」


「……新府に参ろうかと」


 新府か。

 勝頼が新しく建てた城があったっけな。

 莫大な費用が掛かったので民達に不平不満が広がった一因らしいが。


「承知しました。降伏した武田の者に送らせましょう。無論、我が方からも護衛を用意致しまする。……では、これにて失礼」


 俺は頭を下げ、兵士に任せると信重様の下に戻って松姫様の言葉を伝えた。

 これを聞いた信重様は、


「……なら、仕方あるまいな」


 そう言って寂しそうに笑ったのだった。


 ……いやぁ、青春だねぇ。






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