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第百十三話 武士ならざる者の戦

本日の昼頃には感想を返せると思います!

お待たせして申し訳ないです!

 1562年 信濃 



「――では、参るぞ! 出陣!!」


 武田家当主武田勝頼から全指揮権を委ねられた跡部と長坂、そして信濃の一部を任されている秋山とその将兵総勢七千の軍勢は、秋山の居城で休息と補給を行った後、美濃との国境にまで進軍していた。

 戦国随一の武勇を誇る武田の騎馬軍団。

 対して、”軍監衆”と”退き佐久間”達織田勢の兵数は少ない。

 美濃各地に点在する其々の城には将が詰めているが、それも大した加勢にはならない。

 先の戦であっても、織田本隊が到着していない今ならば負ける筈もない。

 彼等は、そう思っていた。

 そう――信じていた。






「――長坂様! 再び奇襲です!」


「――クソッ! 卑劣な真似を!」


 武田軍は混乱していた。

 武田軍が国境を越えた瞬間、織田軍の奇襲が始まったのだ。

 最初の一撃は、遠くから投げ込まれた炮烙玉だった。

 中に鉄片が仕込まれていたらしく、軍中央で弾けた()()から放たれた鉄片が、その勢いもあって足軽が着る程度の軽鎧等を容易く貫き、ある者は腕や足を使えなくさせ、当たり所の悪い者は絶命させた。

 それを皮切りに、強引に突破しようとすれば撒菱等によって()を潰され、動けなくなったところを鉄砲部隊に奇襲され、逃げ帰ろうとすれば炮烙玉や火矢等によって妨害される。

 弓兵に其方を狙わせるが、隠密に優れている敵である故に上手く狙いを付けられず、騎馬隊に向かわせるが、罠に掛からせてその間に逃亡する等、どの様な手段を用いても敵を発見出来なかった。

 更にはその混乱に乗じて後方にいた小荷駄隊を重点的に狙われ、火をつけられるなど、数で有利な筈の武田軍は翻弄されていた。


 ドドド!!


 今度は幾つもの銃声が聞こえてくる。

 ただでさえ先の戦において鉄砲を使った戦術で敗北に追い込まれた武田の将兵は、遠くからの銃声にさえ過分に反応し、恐怖してしまう。

 武田が誇る屈強な馬も、銃声に慣れていないのに加え、地面に撒かれた撒菱や火矢、吹き矢等によって暴れ、馬に蹴られたり踏まれたりして死人が出る程だった。

 更には、普段通る様な大きな道を通るのではなく、信濃から美濃に入る、それなりに広いが山道と言える道だ。

 上手く動ける訳も無い。


「もう――もう駄目だ!」


「俺は死にたくねぇ! 死にたくねぇ!!」


 この混乱は、もう誰にも止められない。






「そら、やる事はいつもと同じだ! どんどん撃っちまいな!!」


「「「「――へい!!」」」」


 後世において”雑賀孫一”の名で知られる”雑賀衆”の有力者の一人、鈴木重秀の指示により、混乱する武田軍に向けて”雑賀衆”の内自身が率いる部隊が射撃を行う。


「――撃ち方止め! 撤退するぞ!」


「「「「――応!!」」」」


 それが終われば、即座に撤退だ。

 須藤の降した命令通りに動く。


「他の場所に向かった部隊はどうなってる?」


「――うっす! 他の城に攻め入った武田軍も、撃退は成功したっぽいですぜ」


 そんな報告に、重秀は安心する。

 須藤が今回、重秀達に言い渡したのはいつも通りの作戦だ。

 つまりはヒット&アウェイ。

 敵を混乱させ、そこに一撃を加え、即座に離脱する。

 絶対に正面からは受け止めず、襲ってきたら逃げ、襲撃は別部隊に任せる。

 それを繰り返すだけ。

 時には奇襲する時間を置いたり、ワザと見破られて油断を誘ったり、見やすい位置に罠を仕掛けたりするだけだ。

 それに加え、今回は鉄砲だけではなく、忍の使う忍具による妨害工作等も加わっている。


「……戦場の片方が忍と鉄砲を使った傭兵だけの戦場なんて、この戦位だろうな」


 思わず苦笑を浮かべて重秀が呟いた言葉に反応して、周囲の兵達も笑う。


「まぁ後世には余り伝わってほしくねぇような、伝わって欲しい様な感じではあるっすよねぇ」


「こんな俺達が天下に轟く武田の軍勢を打ち負かしちまうんだもんなぁ……」


「でもよ。鉄砲の強さ、知らしめるには良い好機だろ」


「だな。俺達の――銃の重要性ってのを知らしめるには『武田を打ち負かした』ってのは良い宣伝だぜ」


 それを聞いていた重秀は、ある程度のところで手を叩き、話を中断させ、


「――さ、まだまだ仕事はたっぷりあるぜ。次のお仕事に行こうじゃねぇの」


「「「「――応!!」」」」


 元気に反応して、鈴木重秀とその部下は森の中へと消えて行った。





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