第百十一話 軍監達の仕事
短めです。
申し訳無い!
1562年 十月 美濃 岐阜城 【視点:須藤惣兵衛元直】
武田が動くという知らせを聞いたのは十月の事だった。
十月といえばまだ雪の酷い時期である。
本来ならば戦をする時期ではない。
だが、勝頼はそうした。
勿論織田勢及び徳川勢は兵農分離を進め、一年中動ける為問題は無い。
だが、武田はどうだっただろうか?
騎馬部隊にとって雪は不利だと思うのだが……。
例え雪じゃなくとも、先の戦いで織田に惨敗したのだ。
鉄砲対策は取ってくるはずだが、それをした気配も無い。
己が軍の力を過信しているのか、それともただそれを諫言してくれる家臣がいないのか。
まぁ何方でも構わない。
「――武田が動くか。木曾殿からは?」
「えぇ。我等織田に降るとの書状が送られてきました。それと同時に救援の要請も」
半兵衛が頷く。
武田は有能な忍を持っているというのに、それを織田にばかり向け、木曾を調べる事はしなかった。
そして勝頼は木曾には一門衆である武田信豊等を向け、木曾は織田に寝返るしかなくなったのだ。
それによって自分の首を自分で絞めている事に気付かずに。
「さて、では此方も動くと致しましょうか。――紀之介」
「……既に徳川には……書状を、送りました。それと……今川と北条……にも同じく」
信濃木曾谷には武勇優れる徳川を向かわせ、それと同時に今川と北条には甲斐に進軍して貰う。
まぁ少し突いてもらうだけだ。
上杉にも書状を送ったのだが、返答は暫くかかるだろう。
長い物には巻かれろ――違った。
権威大事大義名分大事な上杉にとって良い事だと思うんだが、どう返答してくるやら。
先の戦が後を引いてなければ良いが……。
「――さて、問題は美濃に入ってくる武田の軍ですね。……どう対処致しましょうか?」
「ですな。今美濃には佐久間殿や我々”軍監衆”・”雑賀衆”、そして忍達しかおりませぬ」
「……兵力は……圧倒的不利……ですね」
半兵衛達が考えを突き合わせているのを見て、俺はニヤリと笑う。
「まぁ、こうなりゃ戦になる前に終わらせるしか手はねぇな。……皆は此処の守衛を頼む」
「……須藤殿、何か手が?」
”軍監”達が俺を訝し気に見る。
俺は自信半分偽り半分に自信満々に頷き返す。
「俺の十八番……嫌がらせだよ。――誰かいるか!?」
「――此処に」
俺の声に、待機していた忍が現れる。
「――”雑賀衆”と全ての忍を戻らせろ。……忍が表立って活躍する戦があったって良いだろ?」
「――承った」
俺の笑みに、忍もニヤリと笑みを返してくる。
その瞳に宿るのは自信とこれから起こる事に対する高揚だった。
「岐阜城の守衛は任せるぞ」
「……成程。確かに、それは須藤殿の専売特許ですな」
「ふむ。須藤殿がそういうなれば、我等は守備に専念するとしよう」
「……お任せ……あれ」
さて、此奴等なら安心して任せられる。
半兵衛・官兵衛・吉継――どいつも後世に名を残す程に有能な軍師達だ。
彼等がいれば絶対に――とは言えないが――負けないだろう。
それに加え、”退き佐久間”も織田に残っているしな。
「さ、”軍監”須藤惣兵衛元直の嫌がらせ――見せるとしようか」
……なら、俺は俺に出来る仕事をするのみだ。
忍や”雑賀衆”を率いている俺だからこそ出来る事を。