第百九話 木曾義昌
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1562年 信濃木曾谷
「殿! 殿! 書状が、書状が届きまして御座りまする!!」
バタバタと五月蠅い音を立てながら、侍姿の男が評定の間へと駆け込んだ。
評定の間には十数人程度の男達が座り、何やら話し込んでいた。
「――なんだと? 何処からだ?」
その男達の中で上座に座っていた男――信濃木曾谷領主木曾義昌が、訝し気な顔で訊ねる。
駆け込んできた男は息も絶え絶えに報告
「……織田からに御座ります!!」
「なんと!!」
一気に場がざわめきだす。
木曾義昌はすぐさま男が持って来た書状を広げ、読む。
「……殿、織田は何と?」
「………………武田を……義兄を裏切れ……か」
書状の内容は、武田に対し疑問を抱いていた木曾義昌の心を揺さぶった。
美濃 岐阜城 【視点:須藤惣兵衛元直】
「さて、木曾義昌は此方に降伏してくれるかねぇ?」
武田への調略の第一段階として降伏を勧める書状を送ったのは史実でも武田を裏切った木曾義昌だった。
木曾義昌。
信濃国木曾谷を代々治めてきた木曾氏の第十九代当主。
元々木曾氏は断絶した木曾義仲の嫡流に連なる名族を自称してきた一族であるが、実際には藤原氏であり、義仲の義弟だった木曾基宗が『木曾氏』を称して木曾谷を支配した、というのが事実らしい。
それ以降、信濃守護である小笠原や飛騨の三木と争いながら、同じ信濃の諏訪氏等と友好を築き、勢力を固めて行った。
だが、先代である義康の時代、武田信玄によって諏訪氏が没落、守護の小笠原も敗北すると、武田は木曾谷にも侵攻、娘である岩姫を人質として送るが、最終的に縁組によって御一門衆として遇される事になった。そんな経緯がある一族だ。
そしてその義昌は信玄の娘真理姫と婚姻を結んでいる。
つまりは現当主勝頼の義理の弟だ。
だが、近頃は重税や先の戦での武田の敗戦によって、家臣達からは不満が出ているらしい。
俺達からしてみれば、良い狙い目である。
対織田の最前線基地である木曾谷を治め、勝頼の義弟である木曾義昌が裏切れば、武田に対して相当なダメージを与えられるだろう。
「さて……どうでしょうな。だからこそ、我々も織田が勝てる様に動くしかないのですが」
「ですな。……しかし、木曾が裏切るには一歩足りないやもしれませぬ。手を打っておきたいですな」
そう。
史実では、”長篠の戦い”があった。
こっちの世界でも、長良川で戦ったあの戦がそれに該当するだろう。
だが、”長篠の戦い”程武田の将兵は死んでいない。
赤備えを率いていた山県昌景こそ討ち取ったが、馬場信春や内藤昌豊等武田を支えてきた重臣達の多くは存命している。
つまり、木曾義昌に対して与えられる印象が史実よりは少ないのだ。
……ふむ。
俺達が悩んでいると、加入したばかりの吉継が声を上げた。
「……須藤殿……忍を……使いましょう」
「……忍? ……っ! ――そうか!!」
「成程。木曾義昌が織田に内通している噂を流せば良いのですね」
「少なくとも、織田から書状を送ったのは事実。武田がそれを見て『内通した』と判断しても何ら不思議は無い……」
吉継の案に、俺も半兵衛も官兵衛も賛同する。
もし武田が木曾を内通したと判断すれば、木曾は此方に寝返る他ない。
それに、それ以外にも調略しているという噂を流せば、皆が疑心暗鬼になるだろう。
「――誰かいるか!!」
「――此処に」
俺の声に、直ぐに取次役の忍が現れる。
いや、勿論隣の部屋に待機させていただけだ。
別に漫画やアニメみたいに何処からともなく現れるなんて事ありはしない。
「武田領に『信濃木曾が織田と通じている』という噂を流してくれ。それと同時に、幾つかの家にも調略を行っている事もな。……出来るか?」
「――はっ!」
「――じゃ、頼んだぜ」
俺の言葉に頷くと、忍は他の人間に知らせる為に去っていった。
伊賀・甲賀合わせて俺が雇った相当数の忍がこの噂を広める為、武田領へと侵入するだろう。
上手くいく事を祈るのみである。