第百七話 忍狩りを始めよう
遅れて申し訳ありません!
1562年 美濃 岐阜城 【須藤惣兵衛元直】
今川領から帰還した俺は、信長への報告を終えると、即座に仕事に戻った。
因みにであるが、今回も柊殿と吉千代は京で留守の為、備中から美濃に直行したので、またもや二人には会っていない。
……吉千代、俺の名前忘れてなきゃ良いけど。
そんな俺は、岐阜城の一室に伊賀・甲賀の忍達を集めていた。
勿論、俺直属の連中だけだ。
織田本軍の忍者は甲賀出身の滝川殿や軍を取り纏める丹羽殿等が率いている。
だが、今美濃で動けるのは俺が個人的に雇っている伊賀忍・甲賀忍・借りてきた根来衆・”雑賀衆”だ。
一応は彼等の経費は、俺が戦功で得た金や”軍監衆”の経費から落とされているのだが、意外と膨大な数いる為、意外と金がかかる。
……ホント、これで領地持ってたり城持ってたり配下が増えたら俺多分精神的に終わるぞ。
ただでさえ”軍監”としての仕事が多いのだ。
これで領地運営や家臣団のいざこざなんてあっても逃げ出すと思う。
……多分逃げさせてくれないよなぁ。
俺としてはとっとと隠居して全国を旅したり、良く晴れた日の軒下で茶でも飲んでぼーっとしてたいのだが……。
信長に聞いてみるかなぁ……『若隠居したい』って。
息子の吉千代はいるが、大きくなった頃には天下も織田の下に統一されて……ると思いたいので、正直に言ってしまえば好きな事をやらせたいので、城仕えでなくても良いと思っている。
というか、吉千代に継がせられるモノなんか何も無いんだけどな!!
”軍監衆”は世襲制じゃないし、当主嫡男の目付けといっても大した権力なんざ持ってないし。
ハッハッハ!!
「なぁ重秀はどう思う?」
俺は隣に座っている鈴木重秀に問う。
「いや、旦那が今隠居したんじゃ誰が役目を引き継ぐんだよ」
「……官兵衛とか半兵衛とか……若いんだったら氏郷殿とか……か?」
後は秀吉とか藤堂とか大谷とか……そういや、大谷が”軍監衆”に来るとか言ってたっけなぁ。
「いや、一応俺達を率いて動くんだぜ? 前線に出れる将じゃなきゃダメだろ? それに忍を動かせて、尚且つ自由に動ける人間じゃねぇと」
「じゃあ半兵衛や官兵衛は除外か。……中々に候補が見つからないな」
こうして考えてみると、俺の代わりに動ける奴って少なくね?
役目としてはそこまで難しいモノでは無いんだが、如何せん『自由に動ける』っていうのが難点だな。
将達は家格が高かったり、戦での論功の為、皆どこぞに領地を持っていたりするし、
持ってないのは秀吉位か?
……いや、でも近江の横山城周辺を任されているから、あれはあれで領地ではあるのか。
「――というか、旦那。なんで俺達が呼ばれたんだよ」
――っと。
そうだったそうだった。
すっかり忘れていた。
俺はこの場にいる皆の顔色を確認してから立ち上がり、
「……忍狩りをします!」
先ず第一声。
一言目が大事だからな。
だが、俺の言葉に対し、皆の表情は「今更何を言っているんだ此奴は」という冷たいモノだった。
……泣くぞ。
「……ゴホン。あー……武田の強さ。確かに精鋭の騎馬部隊による軍勢には勢いは有るが、武田を強者たらしめているのが、敵の情報収集能力だと考えている。三つ者、歩き巫女等を使い、日ノ本全土の事を事細かに知る事が出来る情報網を持っている。此度の戦でも、忍が多く放たれている筈だ」
俺の発言に、その場にいる全員が頷く。
「だが、奴等にくれてやる情報などあるものか。方言や怪しい仕草をしているものがいれば、捕らえてくれ。間違ってたら金を払って謝れば良いさ。……頼んだぜ」
「「「「ーーはっ!!」」」」




