第九話 桶狭間の戦い 男達の生き様
味方だから恰好良くさせたいという作者の欲望の具現です。
※指摘をいただきまして、キーワードに”チート”を追加致しました。
……そりゃこの年齢でそれなりにできればチートだよなぁ。
尾張国 丸根砦
「殿が出陣なさったと!?」
「それは真か!」
今川軍先鋒松平軍からの猛攻を受けていた丸根城に詰めている佐久間盛重を筆頭にした者達は、主である信長出陣の報を聞いて歓喜に沸き立っていた。
「はっ! 現在殿は丹下砦へ進軍。その後善照寺砦に向かうとの由!」
それを聞いた丸根砦大将佐久間盛重は援軍は来ない事を理解した上である事を決意した。
――決死覚悟で討って出る事を。
全兵を砦内に集め、盛重は声を張る。
「――皆、死ぬ覚悟は出来ておるか!」
「「「オオオオッ!!」」」
兵達も盛重に負けじと声を張り上げる。
その声は攻めている松平の兵達にまで聞こえて来ていた。
「――死して尚、敵の喉に噛み付き、殺す気概は持っておるか!」
「「「オオオオォォ!!」」」
盛重は刀を空に掲げ、兵士達も同様に手にした得物を空へと突き上げる。
それを満足そうに見回し、盛重は笑みを浮かべた。
「主家が為死ぬは是、武士の誉れ! これより我等が流す血が! 肉が! 我等が御大将が進む道となる! 皆ァ、殿の為に存分にその武を振るい、潔く死ねィ! ――城を開門せよ! 佐久間盛重、これより討って出る!」
「「「オォォォォォォォオオオッ!!!」」」
「開門! かいもおおぉぉぉんッ!!」
鳴り響く螺貝のブオオォという音と兵士達の声。
「――いざ、出陣!」
丸根砦は開城、佐久間盛重率いるたった五百の軍勢は松平勢を迎え撃つ為に、死を覚悟して攻めに出た。
ほぼ同時刻 尾張国 鷲津砦
「ふむ……佐久間殿は討って出たかの。……勇猛な事よ」
「では、此方はどうするべきでしょうか」
「……」
鷲津砦に詰めていた織田秀敏、飯尾定宗、飯尾尚清の三名も決断を迫られていた。
秀敏は織田信長の父織田信秀に仕え、『秀』の偏諱を受けた重鎮であり、織田一門の長老として信頼され、信長の後見人である人物だ。
飯尾定宗は信秀の従兄弟で、奥田城主である人物で、尚清はその息子にあたる。
三人で顔を合わせ、唸っていたところ、黙っていた尚清が口を開く。
「……籠城しかありませぬ。……籠城は援軍の無い今の状況においては下策。しかし、殿が今川を討つ時間を作る事は出来ましょう」
籠城は、本来援軍が来ることが前提で行われる。
しかし、信長勢は兵力の差もあって援軍が望めない。
だが、尚清はあえてそれを言った。
自分達の主が必ず勝つと信じて。
自分達の死が、それに繋がると信じて。
「……それしかない、かの」
「そうですな」
秀敏と定宗もそれに同意した。
「――では」
それでいきましょう、そう言いかけた尚清に、秀敏が待ったをかけた。
「――尚清、お主は逃げよ。この城は儂等が受け持つ」
「――っ!? 何故ですか! 私も戦いまする!」
だが、秀敏の言葉に父である定宗が同意した。
「そうですな。……尚清よ、お主はまだ若い。これからの殿には、お前達若くも勇猛な者達が必要なのだ」
織田家の長老格である秀敏と父である定宗にそう言われては、尚清は従うしかない。
悔しそうな尚清の肩に、秀敏は手を置いて語り掛ける。
「ホッホッホ、生い先短き老骨が先に死ぬは世の道理。……儂等が敵を抑える故、尚清。主は隙を見て逃げよ」
「……尚清、達者でな。殿の事を頼む」
「――っ! ――はっ! 飯尾尚清、父上や大叔父上の顔に泥を塗らぬよう、一層精進してまいります!!」
そう言って尚清は部屋を出て行った。
駆けて行く足音を聞きながら、秀敏が髭を扱き、優し気に、また嬉しそうに笑う。
「ホッホッホ、まだまだ若いのォ尚清も。……殿や若い衆のこれからを見てみたいとも思うたが……さて、それでは儂等は大殿の元へ参るとしようかの、定宗」
「はっ! ――なに、あの”尾張の大うつけ殿”とそれに魅せられた者達の事です。心配ありませぬよ。……この飯尾定宗、何処までもお供仕りまする」
笑う秀敏に応え、定宗もまた、その顔に笑みを浮かべたのだった。
数刻後 尾張国 善照寺砦 上段の間 《視点:須藤直也》
「――報告致します! 丸根砦の佐久間盛重様、討死! 同じく鷲津城の織田秀敏様、飯尾定宗様討死! 飯尾尚清様は敗走! 丸根砦及び鷲津砦は陥落!」
その報告を受けた時の信長の心情はいかばかりだろうか。
その顔は怒りを抑えている様に無表情だ。
善照寺砦には史実通り、二千余の兵が集まっていた。
上段の間では、同輩達の死に、怒りと悲しみが臣下達の間に広まっていた。
暫くして、信長が静かに口を開いた。
「……須藤、策を」
多分、大将として自分を抑えているのだろう。
大将は慌てても、悲しんでもいけない。
兵士の士気に関わるからだ。
だからこそ、その信長の心意気に俺も答えなきゃな。
「……はっ。……この策は速度が要となっております。……今川本隊はこれより、沓掛城より大高城へと向かう為、桶狭間山を通りましょう。……先ず、その先遣隊を叩き、その勢いの儘今川本陣を正面より叩きます。この雨です。我等の接近には気付かないでしょう」
俺の言葉に、幾人かの家臣が立ち上がる。
「あい待たれい! では、他の砦に詰める同輩はどうするのだ!」
「見殺しにするのか!」
そんな非難に対し、俺は静かに、
「はい。……見殺しに致しまする」
そう答える。
たった二千余の軍勢だ。
これ以上戦力を割けば、幾ら奇襲をするからといっても勝ち目はない。
今川の本陣は五千余の兵がいるのだ。
だが、佐久間殿や織田殿の時間稼ぎのお陰で、今敵本陣を叩けば――勝てる!
「それは余りにも――」
まだ声を上げる家臣に対し、
「――黙りなされ! 大学殿 (佐久間盛重の事)が討って出、玄蕃殿 (織田秀敏の官名)、奥田殿 (奥田城主、飯尾定宗の事)が籠城を図ったのは敵を油断させ、我等に時間を作る為と察しなされ! ここで今川義元を討てなければ、それこそ折角時間を稼いでくれた彼等に対して顔向けが出来ぬでしょう!」
俺の怒声に、場がシン、と静まり帰る。
流石にちょっと怒り過ぎたかなぁ、と反省し、謝ろうとした直前、
「……須藤の策に乗る」
その場に、信長の声が響いた。
そしてダンッ、と畳を叩き、立ち上がり、怒鳴った。
「――死んでいった者達に報いる為、ここで今川義元を討つ! 出陣だ!」
「「「――はっ!」」」
織田本隊二千余、桶狭間山の今川軍本隊五千に進軍開始。
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