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第百話 出逢い

本編百話達成。

まさか連続投稿がここまで続くとは!

 1562年 六月上旬 備中 



 備前を攻略し終えた俺は、信重様と、その護衛として一時京に戻る三左殿と勝三と別れ、秀長と共に備中に向かう事となった。

 だが、秀長はまだ戦後処理が残っていた為、俺は”雑賀衆”を秀長に預け、鈴木重秀以下数人で備前・備中の市井に紛れ込み、情報収集を行いながら備中へと向かっていた。


「へぇ~織田がねぇ……」


 今は茶屋に寄り、休憩をしながらそこに寄った旅人や浪人、商人達と情報交換をしていた。


「おう、備前も織田の手に落ちたって話だ。……アンタ等備前の方から来たみたいだが、知らねぇのかい?」


 商人の男がそう訊ねてくるが、俺は笑って首を横に振る。


「あぁ、俺達はこれから織田と毛利の戦が激化するってんで、働いて金稼ぐ為に備中に向かうのさ。……なぁなぁ、皆はどっちが有利だと思う?」


 俺の質問に、その場にいた者達は頭を抱える。

 彼等の多くは備中や備前等を中心に活動する人々だ。

 毛利の強さを知っていると同時に、織田が京を取り、将軍を排した事も知っている。

 毛利家は、元は一国人領主だったのだが、暗殺や謀略・調略、養子縁組や縁談、そして数々の戦によって独立し、自分達の領土を確立してきた一族だ。

 最近は体調を崩しがちなのか表に出てくることの無くなった毛利元就、その息子隆元、そしてその嫡男輝元を中心に、元就の次男・三男が其々当主である吉川と小早川の”毛利両川”がそれを支えている。

 その名は既に全国に知れ渡っている程、毛利の勢いは凄まじい。


「そうさなぁ……」


「うーむ」


「どうだろうねぇ……」


 と、人々が悩む中、


「――織田が勝ちますよ」


 そう何の迷いも無く言い切った者がいた。

 俺は珍しいと思い、その声の主の方を向く。

 声の主は浪人だった。

 眼には深い知性を湛え、着物の隙間からは鍛えた身体と、幾つかの生傷。

 恐らくは俺と同い年か一つ二つ上だろう。

 周囲の客には団子を振舞い、俺自身は、先程答えた男の目の前に座る。


「どうしてそう思うのですかな?」


 男は此方を見て口の端を上げてニヤリと笑い、


「……今の最前線は高松城、あれは確かに堅城です。周囲が沼ですしねェ。……ですが、近くに川がある」


 ありゃいけません。

 そう男はそう言い、俺の耳元に顔を近付け、俺にだけ聞こえる声で囁く。


「それにアンタ等、織田の兵でしょう?」


「――ほぉ?」


 こりゃ驚いた。

 まさか見破られるとは。


「……慧眼恐れ入った。何故分かったのですかな?」


「ハハハ、これでも幾つかの戦場を渡り歩いた身だ。織田の軍勢に加勢したり、戦ったり……アンタ、結構な有名人じゃないですか。……ねぇ、織田”軍監衆”須藤元直殿?」


「――!! これは……驚いた。まさか見破られるとは思いませんでした」


 ホント、びっくりだ。

 織田軍だって事は兎も角、俺の名を知っている事も驚きだし、俺の顔を知っている事も驚きだ。


「何、ただ戦場で会ったアンタの顔を覚えていただけですよ。顔を覚えるのは得意でしてね」


 どんな記憶力だ。

 バケモンか此奴は。


「……名をお聞きしても?」


「えぇ、勝猛。……嶋勝猛。主無く彷徨う牢人に御座る」


 (しま)。……()ねぇ。

 多分、恐らく、コイツは――


「勝猛殿。……勝猛殿はこれから何方に参られるのか?」


「俺ですかぃ? ……ま、当ても無く彷徨うだけですがね。久しぶりに故郷にでも帰ってみるかな、と。では、俺はこれで」


 そう言って立ち上がる勝猛殿に、俺は声を掛ける。


「貴殿程の人物と出会えて良かった。故郷を訪れた後は、宜しければ我等が陣営に来てくだされ。勝猛殿程の御仁であれば歓迎致しまする」


「それは有難い。縁あれば、またお会い出来るでしょう。では――」


 嶋勝猛はそう言って、茶屋を出て行った。



 ふむ……あれが、ねぇ。

 嶋勝猛……いや、島清興。

 いや、こう言った方が分かり易いか。

 ”三成に過ぎたるもの”――島左近。


 ……まさか、ここで会えるとはね。

 味方に引き入れたいが……さて、どうしようかねぇ。



色んな意見あると思いますが、彼の設定はこれでいきたいと思います。

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