第九十九話 備前侵攻完了
遅れてすいません。
「……うむ、凄まじいな。流石は”槍の三左”の血を引く勝三と”鬼兵庫”だな」
織田家嫡男織田信重が宇喜多直家等宇喜多勢が籠る備前岡山城に向かう道中は、地獄絵図にも似た凄惨な状況だった。
周囲で血を流して倒れる宇喜多勢の屍の数々。
池か湖でも出来るのではないかという程の流れる血、血の臭い。
余り前線に出る事のない信重配下の兵士達の中には、耐えられず嘔吐してしまう者や、少ししか覚えていないのだろう、念仏の一節をずっと繰り返し唱える者もいる。
「……信重様、余り見ませぬ方が宜しいかと」
先鋒として突撃していった長可の代わりに護衛として控えている木下秀長が気遣わし気にそう声を掛けてくるが、信重は首を横に振る。
「いや、私は何れ織田を率いるのだ。これもまた、見なければならぬモノ。それに、お主や三左等は常にこの様な中戦っておるのだろう? ……なら、”天下布武”を継ぐ者が、武家の頭領となる者が、この程度で怖気づいては、兵士達がついて来ぬだろう。――行くぞ」
そう自分に言い聞かせる様に言うと、信重は馬を進ませた。
「……あのお方が跡を継ぐならば、織田は安泰でしょうな」
若き次代の後ろ姿を見た秀長は、満足そうにそう呟き、信重の後を追った。
備前 岡山城 【視点:須藤惣兵衛元直】
「……おーおー、こりゃスゲェ」
森の中で待機していた俺達が、岡山城に着いた頃には、既に死体が片付けられ始めていた。
死んだ兵士達は一ヵ所に纏められ、山の様に積まれている。
「――須藤!!」
「――旦那ー!!」
お、三左殿と勝三じゃねぇか。
怪我もなさそうで安心だ……が、
「――いててててててててて!!」
俺は近付いてきた勝三の耳を思い切り引っ張る。
「――お前、命令を無視したなこの野郎。俺からの命令を聞き流したのはこの耳かァ?」
「痛い、痛いって旦那! 俺、さっき父上に叱られたばっかだし、それに別に勝ったから良いだろ!?」
「この阿呆が」
俺は勝三の頭にチョップを加える。
「今回は敵も余り強くなかったし、余裕があったから三左殿や秀長が臨機応変に対応したがな、普通なら手前が命令を無視した事で陣が崩れ、味方を危険に晒すかもしれねぇんだぞ。それに、『勝ったから良い』なんてのは結果論だ。これ以降は少なくとも俺なり三左殿なりに一言言え」
「――応!! わかったぜ!」
俺の説教に対し、勝三は反省の色も全く見せずにそう頷く。
……ったく。調子の良い奴だ。
「……で、三左殿。宇喜多直家等はどうなった?」
「応、無論捕えている……と言いたいところだが、捕らえる前に降伏してきたんでな。これから若と会わせるつもりだ」
「そうか。……俺も一応立ち会うかな」
「そうしてくれ。俺も勝三も、そう言った事は好かんし、秀長には軍の再編と戦後処理を任せているからな。お前が相応しいだろ」
「分かった。……じゃ、俺はこれで」
俺は三左殿と勝三と別れ、信重様の下に向かった。
備前 岡山城 評定の間
「……織田家当主嫡男、織田信重だ」
評定の間にて、上段の間には信重様が座り、それまでそこに座っていたであろう宇喜多直家含め宇喜多勢は下段の間に平伏していた。
「――我等宇喜多家、織田に忠誠を誓いまする」
宇喜多直家等が平伏している間に、信重様が此方に目線を向けてきたので、首肯を返す。
信重様は頷き、
「……表を上げよ」
宇喜多達が顔を上げたのを確認して、
「殿の沙汰にもよるが、決して悪い様にはせぬ。これよりは天下統一の為、働いてくれ」
「「「「――ははっ!!」」」」
……ふぅ。
取り敢えず備前はどうにかなったか。
次は秀吉達が攻略している備中か。
やれやれ、忙しいったらありゃしない。
少しは休みが欲しいモンだが、上手くはいかないなぁ……。