第九十八話 ”森衆”の戦
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「おらおらおらおら!! 何だ備前の兵ってのは弱っちいな!!」
そんな事を言いながら、愛槍”人間無骨”を振るう長可。
これまた愛馬”百段”で駆けながら、一人また一人と突き殺していく。
確実に相手を葬る為に喉を狙い、すれ違う瞬時にそこを貫いている様は、正に”鬼”の様だ。
しかも、敵を突き殺す時も必死さや嫌悪感等一切なく、ただ獰猛な笑みを浮かべ、愉しそうなのだ。
突いた際に返り血を浴び、鎧が血に濡れ、顔にまで掛かっているが、それを気にすることなく突き進んでいく。
正に、”鬼”に相応しい姿である。
「――で、敵将の籠る城ってのは何処だ元正?」
「あちらで御座いますよ」
長可の問いに、正しい方向に指を差して答える各務もまた、血塗れであり、それを気にする様子も無い。
長可の問いに答えながらも、右手に握られた刀を伸ばして、兜の隙間に差し込む様にして刀を突く。
正しく”鬼兵庫”の異名に相応しい戦いぶりである。
「よっしゃ! 旦那や父上に取られる前に、俺達で宇喜多の頸、取ってやるぜ!!」
須藤の心配通り、須藤からの命令である『生きて捕縛せよ』という命令すら、長可はちゃっかり忘れている。
「――忘れておる様ですが、『命は取らずに捕縛せよ』と軍監殿は申しておりましたが」
各務がそう言うも、
「――え? 何だって?」
敵兵を殺す事に集中している長可に聞こえる筈もなく、
「……ま、その時に止めれば良いか」
結局は各務も、長可に伝えるのを諦めた。
一方、城に籠る宇喜多直家は、此方に攻めてくる織田軍を見て、眼を見開いていた。
「な、なんなのだあれは!」
思わず、隣で同じく前線を見ていた家臣達に対して喚いていた。
「あ、あれは……”鶴丸”ですから、織田軍の森家の旗かと」
家臣の一人がそう答える間にも、”鶴丸”を掲げる軍の進撃は止まらない。
徐々に、城に近づいて来ていた。
だが――
『おおおおぉぉぉぉぉぉっ!!』
別方向からも、幾つもの野太い雄叫びが聞こえてきた。
それは、先程の軍勢とは別方向から聞こえてきた。
「な、何事だ!?」
慌てふためく宇喜多直家と家臣達に、慌てて兵が駆け込んできて、
「――報告します!! 別方向より織田軍が出現! 現在兵を蹴散らし、此方に向かって来ております!! 紋は”鶴丸”。――織田家臣森家のモノです!!!」
凶報を齎した。
「突撃突撃!! 抵抗するなら容赦はいらねぇ、城ごと潰してやんな!!」
「「「「応!!」」」」
森長可と各務元正が攻めている別方向から、森可成率いる別動隊が城に守衛として残っている宇喜多勢を討ち散らしていた。
森家当主可成率いる別動隊は、森家の中でも長きに渡り可成と共に戦場を渡って来た歴戦の猛者達によって構成されている、言わば”森衆精鋭部隊”である。
”槍の三左”を筆頭に、森家の年長者達で構成されており、長可率いる本隊に勢いは劣るが、気迫と経験では勝っている。
可成率いる別動隊は、普段須藤が行っているのと同様に、軍旗を立てず、木々の中に姿を隠して城に接近、軍旗を立てて宇喜多勢を急襲したのだ。
それに加え、長可等の暴れっぷりもあり、宇喜多勢の視線は完全に織田本隊へと向けられており、別動隊の事を察知できていなかった。
その為、城の近くまで接近を許してしまったのだ。
既に周囲の兵は軒並み殺されており、城に攻め入るだけとなっている。
可成は城に突入していく兵士達を見ながら、肩を鳴らし、
「さぁてと……須藤の手を煩わせるまでもねぇし、勝三を待つまでもねぇ……宇喜多直家、とっとと降伏させちまうか」
どうやら、森可成は忘れていなかった様である。
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