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それからほどなくして海乃の準備が終わると二人は学校へと向かった。
「昨日の話、本気なのか?」
家を出て少したった頃、そう吹雪が尋ねると、当たり前だと云わんばかりに大きく頷いた。
「ほんとは去年やりたかったけど部活作る余裕がなかったからねー。」
吹雪と違うクラスだったからいろいろと焦っていたのだと。
「でもお前、確か違う部活入ってたらだろ?そっちはいいのか?」
確か海乃は料理部に入っていたはずだ。
回りの男子が海乃の手料理を食べたいと宣っていたことを吹雪が思い出していると、へへっといたずらっ子のような笑みを浮かべ海乃は答えた。
「元々友達に誘われて入っただけだから去年で一緒にやめちゃったの。
料理くらいならたまに家でやってるから別にいいし。」
「やめちゃったって……。まあそれはいいとしてなんで黒魔術部なんだよ。」
「そんなことは決まっているじゃない。黒魔術仲間を作りたいからだよ!」
「それだけならオカルト部にでも入ればよかったんじゃないか?」
「あれはいろいろ余計なのが多いからね、私の趣味じゃないよ。…………それにぶっきー以外にあんまり人が居てほしくないもん。」
「ん?最後何か言ったか?」
少し顔を赤くさせ呟いた海乃の最後の言葉が小さく、聞き取れなかったため吹雪は聞き返しすが、
「なんでもないよーだ。ほらほらもうすぐ学校だー!」
それには答えずに海乃は学校の方へと駆け出していった。
昇降口で二人は一端別れると、靴は履き替える吹雪に一人の少女が声を掛けた。
「吹雪君、おはよう。中津さんと一緒に登校なんて朝から見せつけてくれるねー。二人が仲良かったなんて知らなかったよ。」
声を掛けてきた少女は吹雪と2年間同じクラスとなった藤堂夏姫だった。
「夏姫か、おはよう。海乃とは幼馴染みなだけだよ。去年は違うクラスだったせいであいつが拗ねて一緒に登校しなかったらそのままズルズルた一年長引いたんだよ。」
「夏姫がとは何よ!それにしても幼馴染みだったとはね……。今はあの鉄壁の美少女中津海乃についに彼氏がって話題で持ちきりよ?」
そう笑いながら話す夏姫に吹雪はげんなりした様子でやっぱりかという思いにかられた。
「この学校で中学一緒だったやつ少ないからな、普通に俺だと釣り合わないから勘違いで攻撃とかされないことを祈りたい。……て言うか鉄壁の美少女ってなんだよ!」
あれ?知らないの?と言わんばかりに不思議そうな表情を浮かべ夏姫が説明する。
「今まで彼女に告白して生還できたものは居ない。サッカー部のキャプテンから学年1の秀才のイケメン達を含め撃沈したものは数知れずと言われているわね。」
「……なんだそれは。あいつってそこまでモテるのか?」
確かに身内補正がなくとも相当な美人だとは思っていたがそれほどまでとは知らなかった、と吹雪が少し恐怖を感じていると靴を履き替えてきた海乃が姿を現した。
「ぶっきーおっ待たせー!」
「それではお邪魔虫の私はこれで退散するよ、先に教室に行ってくるね。」
海乃の姿を確認すると夏姫はひらひらと手を振って先に教室の方へと向かっていった。
「ああ、また後で。」
夏姫の後ろ姿に言葉を帰した吹雪に近寄ってきた海乃は低い声で問いかけた。
「あの人誰?知り合い?」
「あいつか?同じクラスの藤堂夏姫だよ。いい奴だしお前も仲良くなれるんじゃないか?」
「友達なだけならまだいいけど……。」
吹雪の答えに未だ不服そうな表情の海乃を携えて二人は教室へと入っていった。