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屋根の縁からこぼれ落ちる朝露が映しだす部屋は朝日が差し、風がカーテンをゆっくりと揺らしていた。
「我は汝を召喚する。天の王よりいただいた力を込めて汝に命ず。」
部屋には一人の少女、腰まである髪をなだびかせながらもそれに気にする様子はなくなおも怪しげな呪文を紡ぐ。
「来たれ、地獄を抜けだせしもの。十字路を支配するものよ、我と契約を……」
「朝っぱらから学校でお前は何やってんだー!」
だが、彼女の口から最後まで紡がれることはなく怒声とともに勢いよく開かれた扉から入ってきた少年はより阻まれた。
「汝が我に召喚されし悪魔か?」
こくっと可愛らしく傾けられた少女に一瞬みとれながらも騙されんと少年は怒気を治めずにそのままの勢いで問いかけた。
「俺が足やら体やらが10や20もある悪魔でも見えるんですかね、海乃さん?言い訳はそれだけかー!」
「ち、違うんだよぶっきー!私は何も悪いことは考えてないから!」
少女、海乃の言葉に吹雪は教室をぐるっと見渡す。
「この惨状がか?」
教室の中央には少し歪んでいる五亡星と冷凍のナゲット供物のつもりなのかタッパーに入った状態で置かれており、その回りには五亡星を書くために移動させたのだろう、机と椅子が乱雑に避けられていた。
「今回は何をするつもりだったんだよ……。怒らないから言ってみろ。」
「怒らないからってそれ絶対怒るやつだよねー。」
海乃の言葉できつくなった吹雪の目をみて急いで机の影に隠れてから訳を話し出した。
「えっとね、去年クラス別々だったでしょ?それで学校だと私達あんまり話せなかったじゃない。だから今年もしも違うクラスだったら悪魔になんとかしてもらおうと思ったの!」
名案でしょ、言わんばかりのドヤ顔に吹雪は呆れながらも怒気を抜かれた様子でやれやれと首を降っていた。
「それはいいとして、この片付けどうするんだよ。五亡星とかちゃんと消せるのか?」
「抜かりなないぜ、ぶっきー。これは水で消せるチョークなのだよ!100均で売ってたー。」
「子供の落書き用のやつか、それなら大丈夫だろう。さっさと片付けないと他のやつが来るぞ。」
吹雪は海乃に雑巾を投げ渡すと自らも水で濡らした雑巾でごしごしと五亡星を消しにかかった。
「……くそっ、なかなか消えないんだが……。」
「ねぇねぇ、ぶっきー。なんでこんな時間なのに学校に来たの?」
悪態をつきながらも手伝ってくれる吹雪に、だがそれでも尋ねずにはいられなかったようで海乃はどこか揺れる瞳で吹雪を見つめた。
「……何となく嫌な予感がしたんだよ。おばさんに聞いたら海乃が朝早くから学校行ったって言うし、これななんかしでかす気だなって。」
「なにそれ、ぶっきーってよっぽど暇人なんだね。」
笑う海乃に吹雪は何かを見透かしたように付け加えた。
「今年は大丈夫だよ。同じクラスになれるって俺の勘がそう言ってる。」
「ぶっきーって勘当たる方だっけ?」
「それほどでもないが、まあ、ほどほどだな。」
やがて二人が教室を片付け終わった頃には学校に来る生徒の姿が見え始めていた。
いろいろと黒魔術について勉強をしておりますがおかしなところがあれば是非ご指摘下さい。