ロキの変わり身
「ガヌロン殿、わざわざ出向いて来てくれたのか??我々だけでも大丈夫だと思ったのだが…………」
遅れて合流してきたガヌロンにランカストは首を傾げたが、アルパスターの指示で合流したと言われたら、受け入れざるをえなかった。
「ま、我々だけでは交渉事が上手くいかないと、総大将は思ったんだろうよ。私も部隊に合流したばかりで、まだ信頼されるには至ってないんだな………」
オルフェは残念そうな物言いをしたが、顔は笑っている。
評価は他人が決めるもの、自分が自分を評価すべきではない………という持論を持つオルフェは、常に自分を過大評価しない。
その人にとっては評価されるが、別の人間からは評価されない…………そんな事はよくある話だ。
そもそも、初対面に近い人間に噂話だけで評価されるならば、オルフェはそんな人間を信じられない…………そんな考えを持っている。
だから、今はまだ信頼を得られていなくても、オルフェは気にもならなかった。
「そういう事だな。もし交渉事になったらガヌロン殿、頼みます」
頭を下げるランカストを見て、ガヌロンは悪い気はしない。
12騎士の1人に…………娘を死に追いやった男に頭を下げさせる事が出来る事に、少し優越感を感じる。
これからやる事が、容易く感じてしまう。
「ふん。そっちは任せてもらおう。それより、今回はテューネは付いて来てないんだな??」
「敵の本拠地に少数で赴く今回は、流石に危ないからな…………置いて来たよ」
オルフェの言葉を鵜呑み出来ない…………疑念を抱いて振り返ったガヌロンは、溜息をつく。
「なるほどな…………普通に部隊に紛れ込んでる、あの小さいのは誰だと思う??」
ガヌロンの言葉に後ろを振り返ったランカストとオルフェは、その姿を確認し頭を抱える。
「全軍、一度止まれ!!テューネ、前に出て来い!!」
馬を止めたランカストは、後ろを振り返り大声を上げた。
が…………………
「…………………………」
大男達の中にあり、明らかに小さなその身体を持つ者は、わざとらしく周囲を見渡すフリをする。
「…………おい…………顔を不自然にクルクルしている小さいの…………コッチ来い…………」
「……………あーい……………」
そい言われても少しの間反応しなかったが、無言の圧力に耐え切れなくなり、返事をしてランカスト達の前に歩いて来る。
「お前な…………近衛の任務を放棄して、遠征軍にいるだけで大問題なんだぞ!!そんな状態で、こんな危険な任務に付いて来てどーすんだ!!」
兜を外して、その綺麗な青い髪に覆われた顔が顕になったテューネは、ランカストの大声に目を瞑った。
「はにゃ~~、ゴメンなさーーい。でも~」
「でも~、じゃない!!とっとと帰れ!!」
怒りの形相でテューネに詰め寄るランカストを、ガヌロンが制する。
「ランカスト、ここは既にロキの領地だ。ここから1人で帰す訳にもいかんだろう??それに部隊を割いて、テューネに護衛を付ける程の余裕も無い。後衛に回して護ってやるしかないだろう??」
はぁ……………と大きな溜息を、わざとらしく吐いたランカストは、テューネを睨む。
「これ以上、迷惑かけるなよ!!前衛には、絶対に出て来るな。俺達が必ず護るからな!!」
そう言うと、ランカストはロンスヴォの城に向けて歩みを再開しようとした。
そこに……………死んだ筈のユトムンダスの姿が………テューネの瞳に映し出される。
「ユトムンダス…………なの…………あの時、ランカスト様に殺された筈なのに…………」
「ふん………ヨトゥンの将が、騎士見習いと村娘ごときに殺される訳ないだろ??お前らの遊びに付き合ってやっていただけだ…………それとも、本当に自分達がオレを倒せたと思ってたのか??しかし、あの女の死に様は滑稽だったな…………少しでも後ろに飛べば助かったのに、そんな事すら出来ないんだからな!!」
薄ら笑いを浮かべるユトムンダスに、テューネの怒りが爆発した!!
「貴様!!訂正しろ!!ソフィーア姉様とランカスト様は、私を救う為に…………まだ生きてたなら、私が引導を渡してやる!!」
テューネの刃が、ユトムンダスの左腕に当たり、僅かに傷つける。
「おい小娘!!ロキ様に何て事を…………ガヌロン殿、ロキ様はロンスヴォや部下に危害が及びそうな時は攻撃すると約束した…………確かにロキ様に攻撃するというのは覚書に入っていない…………しかし、大将を攻撃された我々が黙っていると思っていたのか!!」
ビューレイストの打ち込みが…………その鋭い剣先がテューネに迫った!!
ガキィィィィン!!
力と力の入った激しい金属音が、辺りに木霊する。
ランカストが、テューネとビューレイストの間に割って入り、デュランダルで剣撃を止めた。
「テューネ!!しっかりしろ!!ユトムンダスは死んだ!!こんな所にいる訳ないだろ!!すまない、我々に攻撃の意思は無いんだ!!」
「え…………何で??確かに、ユトムンダスは…………ソコに居たのに…………」
テューネは、訳が分からず頭を抱える。
確かにユトムンダスは喋った…………大切な人達を馬鹿にした…………
「攻撃の意思が無い………だと??わざわざ出迎えに出て来た大将を、貴様達の仲間が斬り付けたんだぞ!!最大の礼を無礼で返しておいて………信用など出来ん!!」
テューネの頭は混乱しており、立ち直る間も無く話は悪い方向へ流れて行く。
気付けば、千程度のランカストの部隊は、1万近いロキの軍勢に囲まれていた…………




