表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
ロンスヴォの戦い
93/221

ガヌロンとソフィーア

 

「ここは…………どこだ??」


 薄暗い部屋の一室で、ガヌロンは目を覚ました。


「私は…………そうか、ベルヘイム軍に戻る途中に疲れ果てて、眠ってしまっていたのか……………」


 宿泊しした事も気付かないくらい、疲れていたのだろう…………ガヌロンはそう思いながら、洗面所で顔を洗おうと身体を起こす。


「………………ソフィー……………ソフィー…………なのか??」


 綺麗な黒髪で…………ガヌロンの記憶そのままの容姿で、傍らのソファーに座っている女性……………


 かつて死んだ筈のガヌロンの娘ソフィーアが、そこに居た。


「お父さん………ようやく、私の恨みが晴らせるのね…………私が愛し、私を裏切った男に…………」


 可愛らしい容姿からは似つかわぬ言葉が、その口から放たれる。


「そんな事より、ソフィー…………何故お前はここにいる??夢にしてはリアリティがありすぎる…………」


 ずっと会いたいと思っていた娘が、手の届く距離にいる…………しかし、俄には信じられない。


 ガヌロンは、ソフィーアの夢はよく見る。


 夢に出て来るソフィーアは、娘が死んで気力を失い、頭が回らなくなったガヌロンの窮地を幾度となく救ってきた。


 それこそ、ガヌロンが天才軍師と呼ばれ、その名が全世界に広まったの

 は、ソフィーアの夢を見るようになってからだ。


 だがそれは、あくまで夢の中の話…………目が覚めた時に、現実の世界に居る筈がない。


 いや……………まだ夢を見ているのか…………??


「お父さん……………しっかりして!!ランカストが、こちらに向かって来ている。今の私には、お父さんに頼るしかないの…………ランカストをコッチの世界に連れて来れるのは、お父さんしかいないの…………」


 綺麗な瞳に見つめられ、ガヌロンは言葉に詰まる。


 夢の中では感じない、熱量があった。


「もちろん…………ランカストが憎いのは、私も一緒だ………夢の中でも、その気持ちは伝えていただろ??だが、何故その姿で…………今ここに居る??」


「お父さん…………私は、お父さんの夢の中でしか生きられない。お父さんの目に、私が現実の世界に居るって感じられるなら…………それは私たちの悲願が近いから…………お父さんの意識が、そうさせてるのかもしれないね………」


 ソフィーアはそう言うと、ガヌロンの手をそっと握る。


「そうか…………こうして手を握っていると、その温もりまで感じているみたいだ…………」


「お父さん………私ね、本当はランカストが助けた、あの女が嫌い。私が死んだ後も、ランカストの後ろを付いてまわって…………私が妻になって…………ランカストを助けるのは、私の役目だった筈なのに………」


 そう言うソフィーアの肩は、震えていた。


 その小さな肩を優しく包み込むように抱きながら、ガヌロンはソフィーアの頭を撫でる。


「勿論そうだ。今回も近衛の仕事を放り出して、ランカストの元に来たぐらいだからな…………今回も付いて来ているに違いない。ランカストと共に葬り去ってやろうか…………」


「コッチの世界に来てまで、ランカストをあの女と奪い合うのは嫌………あの女は生かしておいて…………苦しみを与えて…………そして、生き地獄のように辛い人生を送らせるの…………」


 ソフィーアは、そんな事を言う娘では無かった…………だが、優しい娘がそこまで言う程、ランカストの事が好きだったのだろう…………ガヌロンは憎しみを更に燃え上がらせた。


「分かったよソフィー…………私に全て任せておけ…………」


「そうね…………お父さんは、私の期待を裏切った事は無いもの…………今は、もう少しだけ休んで…………」


 娘の…………ソフィーアを抱きながら、ガヌロンは再び眠りに落ちた…………



「ロキ様、お疲れ様でした」


 ロンスヴォの城に戻ったロキは、ビューレイストの目には少し疲れているように見えた。


「昔は、女性への変わり身もよくやっていたのだがな……………最近は、ガヌロンの娘にしか女性になる機会がないから、少し疲れる。トールと遊び回ってた頃は、よく変わり身して悪戯していたモノだが…………」


 一息つくと、ロキは視線を城外に移す。


「ランカストは部隊を率いて、こちらに向かっていると報告が入ってます。親子2役を演じきる…………役者になれますね」


 ビューレイストの冗談にロキは笑って返すと、すぐに真剣な眼差しになる。


「優秀な者を殺すのは、やはり気が重くなるな……………仕方ない事だが…………」


 ロキの視線の先………まだ見えないが、ランカストが部隊を率いてロンスヴォに向かって来ていた…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ