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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
ロキの妙計
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ロキの妙計2

「おや、智美殿…………どうされました??」


 人払いが終わり、外に不審者がいないか確認に出たビューレイストは、木陰に智美がいる事に気付く。


「あっ…………ビューレイストさん…………今日、ベルヘイムからの使者が来るって聞いたので、私…………」


 智美はロキの後を付けて交渉の会場にまで辿り着いたが、中に入るにはどうすればいいか、思案中だった。


「ロキ様の後を付けて来たのですか??素直に話しを聞きたいと言えば、通して貰えたかもしれないのに………自分の事だから、気になるのは当たり前の事ですからね」


 ビューレイストはそう言うと、困った表情の中に笑みを浮かべる。


 智美は、ビューレイストの冷たい中にも優しさのある表情が好きだった。


「とりあえず、入ってみましょうか。ロキ様は、聞かれて困るような話はしてないはずなので…………」


「でも、後でビューレイストさん、ロキさんに怒られちゃったりしませんか??」


 智美の言葉に頭を軽く掻いたビューレイストは、先程の表情より困った度合いの量を増やした顔になるが、それでも頷く。


「まぁ…………なんとかしますよ。それにロキ様に怒られるのも、私の仕事みたいなモノですから…………」


 そう言うと、ビューレイストは警護の兵に入り口を開けさせ、智美と共に建物の中に入った。


 テーブルが5・6脚置いてあり、小さくて落ち着いた部屋に通されると、壁のからロキとガヌロンの声が漏れてくる。


 ソファのようなフカフカの椅子に智美は身体を預けると、壁から聞こえる声の主を確認した。


「ベルヘイムからの使者って、ガヌロンさんなんだ………」


 呟く智美の残念そうな声に、ビューレイストは怪訝そうな顔をする。


「ガヌロン殿は、ミッドガルド1の知才だろ??そんな方が迎えに来てくれたのだから、光栄なんじゃないのかい??」


 持って来たコーヒーをテーブルに置きながら、ビューレイストは智美の顔を覗き込む。


「まぁ………そうなんですけどね………会いたい人じゃなかったなー」


 智美は、ゼークや航太が来てくれるかも??と期待していた。


 でも敵国との交渉に、ゼークはともかく航ちゃんは無理か…………


 そう思いながら、ビューレイストにお礼を言ってコーヒーを一口啜る。


「どちらにしても、今日は帰れないかな??スリヴァルディが余計な事をしてくれたおかげで、ベルヘイム軍に戻るのが延期続きになってしまって、申し訳ないね」


 済まなそうにするビューレイストに智美は笑顔を返すと、壁から聞こえてくる声に耳を澄ます。


「ロキ軍はコナハト城を奪還する為のベルヘイム軍の部隊を攻撃しない………という条件を承諾したと思っていいのかな??」


 壁の先から、ガヌロンの声がはっきりと聞こえる。


「そうだな………デュランダルとランカスト殿の力を確認させて貰えるなら、その条件を飲んでもいい。そもそも、クロウ・クルワッハは、我々と共闘する事を望んでいないからな…………我々がベルヘイム軍を後ろから討つ事はない」


 ロキはそう言うと、鋭い眼光でガヌロンを見つめた。


 現在、コナハト城奪還作戦の為に進軍しているベルヘイム軍は、ロキのいるロンスヴォよりコナハトに近い。


 つまり、ロキの部隊がベルヘイム軍の後ろを突けば、挟撃される形となり、ベルヘイム軍にとっては1番避けたい状況である。


 智美が話を聞き始めた時には、そんな交渉が行われていた。


「だが、ランカスト殿がデュランダルを持って来る事が条件だ。その時に智美殿もお返ししよう」


 ガヌロンは頷くと、用意されていたステーキを一口頬張る。


「分かりました。捕虜を連れて帰れないのは残念ですが、ロキ軍に後ろから攻撃されないという約束が結べるのは嬉しい。ランカストは必ず連れて参ります」


「ああ………デュランダルは、昔は私の部下の剣だった。久しぶりに見れるのが楽しみだ。ガヌロン殿、我々はベルヘイム軍を後ろからは攻撃しないが、ロンスヴォや我が部下に危害が及びそうな時は、攻撃させてもらう。その事は忘れぬようにな」


 ガヌロンは席から立ち上がると、身支度を始めた。


「では早く戻って、今回の交渉結果を伝えて来る。ランカストを連れて来たら…………後は頼むぞ」


「ガヌロン殿!!そちらが約束を破らなければ、我々が約束を破る事はない!!お構いも出来なかったが、道中気をつけてな」


 ガヌロンの言葉を遮るように、ロキにしては珍しく大きな声を出す。


 その交渉内容を壁一枚挟んで聞いていた智美は、天を仰いで頬に溜めた空気を勢いよく吐き出した。


「ビューレイストさん…………私がベルヘイム軍に戻るって話だけのはずだったのに、なんか大変な事になっちゃったね…………」


「いや、ガヌロン殿の知が素晴らしいのでは??ベルヘイム軍が挟撃のリスクを回避出来たのは、凄い功績になると思いますよ。捕虜を返すだけのはずが、上手く交渉に乗せられてしまった感じですね」


 そう言うと、ビューレイストは智美を外に送り出し、ロキのいる部屋に戻る。


 そこには、ガヌロンの姿をしたロキがいた。


 そう…………ロキは相手が神だろうと人間だろうと、出会った者をそのまま変装出来る…………いや、変装なんて生温いモノではない。


 その者になる事が出来る。


 かつて、フォルセティの精霊契約の恩恵を受けるために、オーディンの息子、バルドルに変わり身したように…………


「ビューレイスト、行ってくる。奴がベルヘイムで軍師をやれてたのは、私の助力があればこそだ。その借りを返してもらう時が来た」


 そう言うと、ガヌロンと化したロキも、ロンスヴォを後にした………

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