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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
ロキの妙計
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ソフィーアの涙5

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」


 ランカストは気迫を込めて、最短距離でテューネに襲いかかる柄とテューネ本人の間にデュランダルの腹を滑り込ませた。


 ギリギリのタイミングで、ユトムンダスが勢いよく振った剣の柄をデュランダルの剣の腹で受ける事に成功し、その剣の腹に押し出される格好でテューネは転がる。


 そう……………デュランダルは、押し出されていた。


 つまり……………


 バシャっ!!


 ランカストの身体とデュランダルに、鮮血が降り注いだ。


「ぐはぁっ!!」


 女性の……………ソフィーアの呻き声が、ランカストの耳には聞こえる。


 見なくても分かってしまう……………大好きな人の……………一番聞きたくない声…………


 低空で振られたユトムンダスの剣は、立ち上がったテューネの頭に柄が当たるような低さ…………まだ立ち上がれず、体を半分起こした程度のソフィーアの腹を斬り裂く低さ…………


 そう…………ソフィーアの腹部は、ユトムンダスの剣を半分程度飲み込んでいた。


 ソフィーアは朦朧とした意識のまま、腹に食い込まれた剣を両手で力強く握ると、その剣に自らの全体重を乗せるかのように覆いかぶさる。


(ランカスト…………私の命で…………テューネと…………村の人達を守って…………お父さんじゃ…………今のベルヘイム騎士団じゃ、誰も守れない…………お願い、ランカスト…………テューネと一緒に、平和な世の中を作って…………)


 その時、風が吹いた。


 その清らかな風は、破れたソフィーアの服の切れ端をデュランダルの柄へと運ぶ。


 ソフィーアの血で染まった服の切れ端は、デュランダルの柄に触れると消滅した。


 その直後、デュランダルが血のような赤き輝きを一瞬だけ放つ。


(なんだ…………急にデュランダルが軽くなった…………ソフィーア…………君が力を貸してくれているのか??なら…………オレは振り向かない…………この一撃で………ユトムンダスを討つ!!)


 ランカストが…………デュランダルが纏った力…………神聖な力に、ユトムンダスは始めて恐怖を感じる。


「馬鹿な…………剣が引き抜けない………小娘の力如きで………」


 焦るユトムンダス…………その姿を見ながら、ランカストは地面を蹴った。


「これが…………これが、命を懸けた人間の強さだっ!!貴様には分かるまい、命を消していく事に何も感じない貴様にはっ!!」


 デュランダルは、まるでランカストの腕に同化したかのように………それまで感じていた重さが嘘のように、ランカストの意思のままにユトムンダスに襲いかかる。


「ばっ…………馬鹿なぁー!!」


 デュランダルは、いとも容易くユトムンダスの首を斬り落とした。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」


 ランカストは、腹の底から……………心の深い所から、あらん限りの声を張り上げる。


 そして、村人を襲っているヨトゥン兵を睨む。


 ユトムンダスとソフィーアの返り血を全身に浴び、神剣デュランダルを構えたランカストは、正に修羅に見えた。


「今のデュランダルの剣速…………ユトムンダス様が使っていた時より、明らかに速い!!」


「ユトムンダス様が殺されたんだ!!一旦引いて、態勢を整えるぞ!!」


 大将であるユトムンダスが討ち取られ、ヨトゥン兵達は浮足だつ。


 精鋭であるヨトゥン兵達は、普段なら大将が討たれた事で焦りはしない。


 しかし、ランカストの気迫が…………デュランダルの未知の力が、精鋭であるヨトゥン兵達の危機察知能力に引っ掛かった。


 ヨトゥン兵が後退を始めると、テューネはソフィーアの元に駆け寄る。


「テューネ……………無事で良かった………ランカストは…………まだ、未熟だから…………大きくなったら…………助けてあげてね…………」


 呼吸が早くなり、喋る事も辛そうなソフィーアだったが、ポケットから小さな箱を取り出すと、テューネに渡した。


「この箱に………今日…………お父さんに…………渡そうとしたプレゼントが…………入っているの…………お父さんが…………正しく歩めるようになったら…………渡してあげて…………」


 テューネは箱を受けとると、瞳に涙を溜めながら力強く頷く。


「ありが…………とう…………」


 ソフィーアが目を閉じようとした時、幼いテューネを吹っ飛ばし、ガヌロンがソフィーアの目の前に現れた。


「お父………さん…………」


「ソフィー!!なんで…………なんで、こんな事に!!あの騎士見習いが、お前を救うように動いていれば…………こんな事にはならなかったのに!!」


 ガヌロンは恨めしそうに、ランカストを睨みつける。


「お父…………さん…………ラン…………カストを……………恨ま…………な…………」


 恨まないで…………ランカストは必死に戦って、最善を尽くした…………ソフィーアはガヌロンに、そう伝えたかった。


「ああ、ソフィー、勿論だ!!アイツが…………あの騎士見習いが、もっと上手く動けば、助かったんだ…………お前の恨みは、父が晴らす!!」


 ランカストを睨む父に、必死に首を振るソフィーアだが、ガヌロンは見ていない。


(お父さん…………違うよ…………お父さんは、村人を見捨てた。ランカストは、村人を救った。よく、考えて………………)


 ソフィーアは薄れていく意識の中で…………言葉も発する事も出来なくなり、父に何も伝えられない歯痒さに…………瞳から涙が溢れ出す。


(ランカスト…………もっと…………もっと………貴方と生きたかった…………もっと…………)


 ソフィーアは、最後にランカストの顔を見たかった。


 しかし視界はボヤけて、もはや何も見えない。


(ゴメンね…………ランカスト…………父とテューネをお願いね…………ゴメンね…………)


 ガヌロンはソフィーアに近付くランカストを睨みつけ、自らの腕で息を引き取った娘の為に復讐を誓った。


 その様子を、遠目から見ていた男…………


 ビューレイストは、デュランダルに力が宿るのを確認する。


「なんと…………もはや手に入らないと思っていた聖母マリアの衣服………あのような娘が…………命懸けで、その位まで駆け上がったか…………だが、これでデュランダルが真の力を発揮するまで、後2つの聖遺物を揃えればよくなった………早くデュランダルを解放し、レンヴァル村に眠るアレを回収せねば…………」


 そう言うと、その姿は闇に溶けて消えていった………


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