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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
ロキの妙計
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ミルティの子孫

 

 ロキは約束通り、その日以降はベルヘイム軍や元の世界の事は聞かず、智美は完全にお客様の待遇になっていた。


 ロキの弟と紹介されたビューレイストも紳士として振る舞ってくれ、何の不自由もない生活を送る事が出来ている。


 しかし智美は、ロキ陣営での生活に安らぎを覚えつつ、自分を守る為に戦ってくれたゼークの安否が気になっていた。


 智美がそんな事を思って生活している時、ロキから思いがけない申し出が伝えられる。


 智美をベルヘイム軍へ返してくれると言うのだ。


 久しぶりに戦いの事を考えない生活に心癒されてたが、ゼーク達の事も気になっていたし、ロキの心遣いにも感謝した。


 捕虜なのだから、取引材料に使われてもおかしくない所だが、無条件で返してくれると言う。


 そんな話を断れる訳もなく、今の生活に後ろ髪を引かれつつも、智美はベルヘイム軍に帰る事をロキに伝える。


 ロキはベルヘイム軍の軍師ガヌロンを通じて、返す手筈を整える事を約束してくれた。


 そして、ロキの書状はガヌロンへと届けられる。


 書状を受け取ったガヌロンは、自分が交渉の使者に選ばれるように動く。


 アルパスターに書状の報告に行く時に、わざとランカストに見える様な場所を歩いて、幕舎に入った。


 幕舎の外で話を聞いていたランカストは、思惑通りガヌロンを使者に押し、彼は交渉の使者に選ばれる。


 翌日、交渉の為に出かけようとする馬上のガヌロンの目に、1人の女性の姿が映った。


「テューネ…………ベルヘイム近衛騎士の貴様が、何故ここにいる??」


「いやぁ…………にゃははは!!ランカスト様の命令で、本日からコナハト城奪還作戦に参加する事になりました!!」


 わざとらしく敬礼する薄い水色の女性…………というには、少し幼い顔立ちの可愛いらしい女の子に、ガヌロンは嫌悪感丸出しの表情をする。


「おいっ!!誰の命令だって??仮に誰の命令であったとしても、近衛騎士が城を離れるとは…………近衛の自覚が足りん!!」


 テューネと呼ばれた女性の後ろから現れたランカストは、その小さな身体を軽々と持ち上げると、ガヌロンに謝罪させるように、彼の跨がる馬の足元に放り投げた。


「ウワッと!!あっぶないな~」


 テューネは1回転すると上手く着地し、ガヌロンの跨がる馬の下でひざまづく。


「すいませーん。私の祖母の使っていたトライデントと似た特性の神器を使うMyth Knightが現れたって聞いて…………居ても立っても居られなくて…………近衛騎士の仕事は分かってるんですけど…………」


 テューネは申し訳なさそうにそう言うと、様子を伺うようにガヌロンを見る。


「それだけの理由で………貴様は、近衛騎士の大切さが分かっていない!!騎士としての意識の低さが、20歳になってもMyth Knightにもなれない、12騎士にも選ばれないんだ!!7国の騎士を先祖に持つ者達は、その期待に応える者が多いが…………貴様は、落ちこぼれもいいトコだ!!」


 語気を荒げるガヌロンは、まるでテューネに恨みでもあるかのように睨む。


 この女性………テューネ・ノアは、かつての7国の騎士ミルティ・ノアの子孫である。


「やっぱり…………オレがベルヘイム出る時も、国王様に止められてただろう?まさか、自力でここまで来るとは…………」


 ランカストの後ろから、オルフェが頭を掻きながら現れた。


「ガヌロン殿、すまない。この件は、オレの方から国王様に伝えておく。大事な交渉の前に、気分の悪い思いをさせてしまったな………」


 オルフェの謝罪にガヌロンは少し落ち着いたのか、大きく溜息をつくと前を向く。


「ふん…………オルフェの言う通り、今は捕虜を無事に取り戻す交渉を成功させる事が先決だな…………貴様は、帰ったら処罰を言い渡す!!それまで大人しくしてろ!!」


 ガヌロンは相変わらずテューネの事は睨み続け、その姿が視線から外れると馬を走らせる。


 その後ろ姿を見送りながら、今度はランカストが大きな溜息をつく。


「ガヌロンは、まだ恨んでるのか…………まぁ、忘れろって方が無理な話か………あれから、もう13年も経つのにな…………」


「しかし、ガヌロンは言い方に刺がありすぎる………人の心を掴む事が出来れば、全ての国の頂点に立つ軍師になれる器があるんだが…………それよりテューネ、ガヌロンじゃないが、近衛騎士の仕事を放り投げて来た事は問題だぞ!!」


 オルフェにも睨まれて、テューネはただでさえ小さい身体を、更に小さくする。


「はーい。でも、近衛の仕事してたら、いつまで経っても水のMyth Knightに会えないし…………やっぱり、知っておきたいんだよね…………祖母に…………ミルティに…………過去に何があって、消息を消したのかを…………」


 テューネはそう言うと、青く続く空を見上げた。

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