捕われの姫と神器の秘密
夜営地に着くと、目視で数えても数10個しかないテントに航太は疑問を持った。
(攻めるにしも、守るにしも兵の数が少なスギだろ…………何をする為の軍なんだ??)
そんな事を考えて歩いてると…………
「こちらです」
この軍の指揮官に取り次いでくれたネイアが、テントの入り口を開けてくれた。
それは一際大きなテントで、テントの両側には、これまた大きな旗が刺さっていた。
「う~~~~緊張するなぁ!!熊をも素手で倒す人だったらどーしよー(TωT)ウルウル」
絵美が泣いたフリをしている。
「もし悪い奴なら、ガーゴがぶっ飛ばしてやりましゅよ~~」
…………………
(まぢか??今のは中に完全に聞こえたぞ??てか、なんでアヒルの化け物連れてきてんだ??)
航太はキッと絵美を睨むが、絵美は「(o・ω・o)?」的な顔してる。
「失礼します!」
先陣をきって智美と一真が入り、続いてガーゴを持った絵美、航太と続いた。
松明で明かりをとってる為、テント中はかなり暑い。
汗っかきの一真は、何度も汗を拭っている。
しかし、航太は暑さも気にならないぐらい、目の前の男に圧倒されていた。
先のヨトゥン兵との戦いでは、ヨトゥン兵相手に圧倒したのに…………である。
座っているから分からないが、190センチはあろう身長で筋肉隆々!!
髪の毛は肩にかかるぐらいの長髪で、パーマがかかっている感じだ。
事前にネイアが経緯を説明してくれていたが、航太がもう一度ネイア達に話た経緯を、そのまま話した。
大柄な指揮官…………【アルパスター・ディノ】と名乗った男は、航太達の剣や槍を触って見ているが持ち上げる事もなく、再び航太達の正面に座る。
「成る程な…………確かに全て神器だ………この武器を軽々操ったなら、全員騎士合格だな」
アルパスターはそう言うと急に立ち上がり、頭を下げる。
「君たち、我々と戦ってはくれぬか??」
(なんで軽く見ただけで神器と分かる???)
航太は軽い疑問を感じ、アルパスターに話かけようとした時………
「ちょっと待って下さい!確かにさっきはネイアさん達を助けたけど、私はもう人を傷つけたくないんです!それに武器はお貸しますから、他の騎士サン達で使って下さい!!」
珍しく智美が、感情的に言葉を発した。
一真の願いの事もあるが、それは戦争に参加する事ではないと智美は考えている。
一瞬の沈黙が流れた後、ネイアが静かに智美に話かけた。
「智美様、神器は一度持ち主を選ぶと、その方以外では使えないのです。私はもちろんアルパスター様でも、剣を抜く事はもちろん、持つ事もできません…………」
アルパスターは傍らに置いてある【草薙剣】の柄を握り、フンっと力を込めるが、微動だにしない。
「なんでっ!今までは、お父さんだって普通に持ってたのに???」
智美は信じれないといった表情で【草薙剣】を見つめた。
「先のヨトゥン兵との戦いで、神器が君達を認めたのだろう。剣が軽くなり、恐怖心が無くなった瞬間があっただろう??」
アルパスターに言われ、航太は思い出す。
(確かに、力が湧く瞬間があった!!あの時か…………!!)
智美と絵美も心当たりのある顔をしている。
「神器が主を決めてない時は普通の質量で誰でも持てるが、主が決まった瞬間、他の人間には持てなくなる。主が死んでしまったら元に戻るがな。逆に主が持てば主の一番持ち易い質量になるのだ。そして、神器の数は限られいる。君達は貴重な存在なのだ!」
アルパスターはそう言うと、再び「頼む」と頭を下げた。
迷っている航太達を見て、今まで黙っていた一真が口を開いた。
「アルパスター将軍、今の戦いが何故起きてるのか、なんの為の戦いか説明してもらえないと協力できません!話てもらえませんか?」
「そうだな」と言ってアルパスターは椅子に座り直すと、今の戦いについて語り出した…………
「君達は、現在の状況を何も知らないのだったな」
一真が代表して頷く。
「ふむ」とアルパスターは少し息を吐いた後、一真を一瞬見て、それに一真が頷いて話を促す。
以前から知り合いのような二人のやり取りに、航太は違和感を感じた。
そんな航太の疑問などお構いなしに、アルパスターが話し始める。
「この戦争は、開戦後約100年になる。突然ヨトゥン軍が南の果ての国【ムスペルヘイム】に進軍してきた事により始まる。ヨトゥンの国【ヨトゥンヘイム】から人間界に唯一繋がる【ムスペルヘイム】へは細い道一本しかなく、大軍を送り込む事が不可能だった…………」
アルパスターはそこで一度話を途切る。
「だから今までは攻めてこなかった………」
智美がポツリと言う。
アルパスターは頷いて続ける。
「そう。しかしヨトゥン軍の将軍となったロキが小数精鋭を送り込み、ロキ自ら【ムスペルヘイム】を攻めてきた。【ムスペルヘイム】には屈強な【ガディア騎士団】がおり、そう簡単には落とされなかったが、やがて攻め落とされ【ムスペルヘイム】は【ミュルクヴィズ】と呼ばれる暗い森で覆われてしまった………」
「【ムスペルヘイム】がヨトゥンと戦ってる時に、この世界全ての国が同盟を結んだの。【7国同盟】って言うんだけど、その7つの国の各国から、最強の騎士が集められて、神器を探してヨトゥンにに対抗す事にしたの」
ネイアが続ける。
「この世界は国が7個しかなかったんだ…………神器でなければヨトゥンは倒せないんですか?」
一真が問う。
「いや、普通の武器でも倒せる。だが、ヨトゥンの力は強大で、兵卒でも人間10人は軽く倒す。武将クラスでは神器がないと辛いな…………」
アルパスターは軽く首を横に振りながら話した。
「今、我々は【ベルヘイム】の姫、ヴァナディース様を助ける為に動いてるの」
ネイアは、少し声を殺して言う。
「姫を助ける為だけに、こんな大掛かりな軍を??」
航太は率直な疑問をアルパスターにぶつけた。
失礼な言い方だとは航太自身思ったが、捕われているという事は交換条件を出されている可能性が高い。
しかし、ネイアもアルパスターも、その話題に触れられたくなさそうな雰囲気なのだ。
しかし、その情報を少しでも得たいと思う航太の考えがあった…………
「そうだ。ヴァナディース姫は【ベルヘイム国】になくてはならない存在。故に、遊撃軍として精鋭部隊をベルヘイム国王は編成したのだ」
アルパスターは、当たり障りない返答をする。
(やっぱ遠回しな言い方じゃ駄目か…………直接聞くしかないな)
航太は意を決して、アルパスターの目を見た。
「遊撃部隊だとしたら、数が多くないですか?確かにヨトゥン兵を倒すのに数が必要なのは聞いたケド、この数では行軍スピードが遅くなるでしょ?姫を殺されたら【助ける為の軍】は必要なくなりますよね?」
「それはね………」と言いかけたネイアを、アルパスターは目で征する。
ネイアは一歩後退し口を閉じてしまう。
「私も気になります。ヴァナディース姫が殺されないという確証があるから、行軍スピードをギリギリにして、姫の救出の可能性が高い人員配置にしてるんじゃないですか?」
智美がより核心につく説明をする。
「分かった………可能な限り話そう…………」
アルパスターはそう言うと、自分の周りに航太達を寄せ、外に漏れないような小声で話し出す。
「確かに、ヨトゥン側からヴァナディース姫と交換で差し出せと言われてる物がある」
そこまで言うと、さらに眉間にしわを寄せて、より真面目な表情になった。
絵美とガーゴでさえ、真面目な顔をしている。
「それは【ベルヘイム国】全領土か、【ミステルテイン】と呼ばれる剣だ。もちろん国は守らなきゃいけないが、【ミステルテイン】は太古の昔、母神フォルセティが直に【ベルヘイム】に託した神剣。そうそうヨトゥンに渡せるものじゃない」
「そこで国王は、【ミステルテイン】と姫を交換する交渉をして、【ミステルテイン】がヨトゥン側に渡るまで、姫を殺さないよう約束したの」
アルパスターの後を継いで、ネイアが離す。
(つまり、その2つと同等、若しくはそれ以上の価値が姫にあるということか……………?)
航太が考えをまとめようとした時に、突如1人の兵隊がテントに飛び込んできた。
「報告します!【クロウ・クルワッハ】の軍が、ベルヘイム最南端のオゼス村に進行しました!!」
「なに!!【アデリア】の軍は!」
アルパスターが語気を強める!!
「【アデリア・ホーネ】将軍はベルヘイム東の国境で、ロキ軍と抗戦中であります!!」
「間に合わんか…………【ゼーク】の隊をオゼス村に急行させろ!生き残った人を助けるんだ!!」
アルパスターはそう言った後
「お前達も一緒に行ってくれ。戦場を一度見てから…………さっきの返事はそれからでいい…………」
航太達を見て言った。
その雰囲気に、航太達は頷く事しか出来なかった…………