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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
ロキの妙計
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覚えのない英雄

 ベルヘイム軍の幕舎では、騒がしい朝を迎えている。


「風のMyth Knight、たった1人でレンヴァル村を救う!!」


 その一報は、ベルヘイム軍の士気を高めるに充分であった。


 ヨトゥンの将であるスリヴァルディを倒し、元フィアナ騎士のフェルグスと互角の戦いを演じ退かせたとなれば、尚更に………………である。


「うぃ~~~っす」


 何も知らない…………自分の知らない所で英雄にされた航太が、寝癖の酷い髪を掻きむしりながら、テントから出てきた。


 出た直後………………とんでもない歓声が、航太の耳を貫いていく。


「なんだ?なんだ?何が起きた??」


 まだ夢の中にいるのか……………そう勘違いする程、航太の目の前に広がる景色は想像を絶していた。


 まるで、アイドルかスターが武道館でライブでもやっているかのような……………航太の目の前には、人人人…………人の海が見える。


「航ちゃん凄いね!!レンヴァル村を1人で救っちゃうなんて♪♪」


 唖然とする航太に、真横から絵美が抱き着いてきた。


「??????」


 全く状況を理解出来ていない航太が、怪訝そうな顔をする。


「オレが何を救ったって??今起きたトコなんだけど…………」


 航太は眠そうな顔で……………英雄とは程遠い顔をしながら、再び寝癖の酷い髪を掻き乱す。


「もー!!恥ずかしがり屋サン♪♪皆、航ちゃんが英雄だって盛り上がっちゃってるよ♪♪」


「?????????」


 眠そうな顔で首を捻る航太に、英雄の威厳は完全に感じられない。


「航ちゃん、勘弁してよ~~。英雄扱い……………てか、もはや英雄って言われてるんだから、シャキっとして!!シャキッと!!」


「全くだ……………とても1人で村を救った英雄には見えないぞ!!軍の士気にも関わる!!もっと堂々としろ!!」


 絵美の後ろから顔を出したランカストが、航太の背中を豪快に叩いてくる。


「いてぇ!!2人とも何なんだよ!!朝っぱらから、揶揄うなよっ!!」


 航太はそう言い残して…………これは夢だと、自分に言い聞かせながら…………顔を洗うため、幕舎の中央付近にある水飲み場に向かって歩き出した。


 すると……………


「英雄のお目覚めだぞ!!」


「やっぱりMyth Knightは、人間の希望だ!!」


「不死身のスリヴァルディを倒し、元フィアナ騎士のフェルグスを負かしたなら、もはやウチの総大将より強いんじゃねぇの!!」


「よく見ると、カッコイイよね♪凄い事をやってきたのに、格好付けてないトコが素敵すぎる!!」


 などなど………………兵やら何やらの軍に従事している者達が、男性女性問わず航太を取り囲み始めた。


「???????」


 歩く事すら、ままならない状態に、身に覚えのない航太が困惑していると、人垣の中から一真が顔を出す。


「航兄凄いね!!村の危機に飛び出して行ったと思ったら、1人で解決して来るんだから!!ホワイト・ティアラ隊でも、ファンが急増中だよ!!」


「いや、一真…………オレ、全く記憶が無いんだけど………この盛り上がりで、間違ってるってバレたら……………想像したくもない…………」


 航太が、盛り上がりの中心にいる自分自身が一番困惑している事を、一真に告げた。


「昨日、酒を飲み過ぎたんじゃない??無意識で戦ったから、力が発揮できたのかも??」


 一真の意見に、航太は首を捻る。


「そんな酔うほど飲んでないんだけどなぁ………こっちの酒は、後からくるのか??」


「そうかもね!!じゃあ、オレは村人の治療があるから…………」


 一真は、傷ついた村人が運び込まれているテントに向かって、人垣に消えていった。


 一真の消えた方を、睨むようにゼークが見つめる。


「あれ、ゼークどったの?そんな恐い顔しちゃってー」


 真っ先にゼークを見つけた絵美が、目の釣り上がっているゼークの視線の中に突然飛び込む。


「わぁ!!って絵美、脅かさないでよ!!」 


 胸に手を当てて驚くゼークの表情は、いつもと変わらないモノに戻っている。


「よう、ゼーク。すげー困った事になってるんだが…………何か知らないか??」


「あ、うん………………んーとね、知らない!!」


 つい、エアの剣が持ち出された事実を喋りそうになったゼークは、ネイアから口止めされているのを思いだし、慌ててしまう。


「なんか変だけど……………大丈夫か??」


「あっ、うん。何でもない、何でもない。それより、エアの剣は…………無くしてないよね?」


 ゼークの話を聞いていた絵美が、突如吹き出した。


「やー、ゼークさん。今日は、調子悪いねー。いくら航ちゃんでも、剣は無くさないでしょ?」


「ま、酔っ払ってても、流石にね。ちゃんと置いてあるの確認したから、大丈夫だよ」 


 絵美と航太の言葉に、ゼークは安堵する。


(結局、彼が解決してきちゃったって事だよね…………今でも信じられない……………)


 ゼークは、剣が戻っている事への安心と、事実を伏せなくてはいけない疑問で、なんとも言えない感情が心を支配していた。

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