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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
レンヴァル村の戦い
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少女の見た戦場

 スリヴァルディに人質にされていた少女は、魔法をかけられたのが他の村人より早かったからか、かけられた魔法が解けて眠りから覚めた。


 開いた瞳に映ったモノ………………それは、烈しい雷の中で戦う1人の男の姿……………そして、その男が剣を振る度に、少女の頬を柔らかで心地好い風が撫でていく。


 あの男の人は誰だろう?


 剣先から雷を発しながら戦っている騎士は知っている。


 白と黄金の鎧は、何度かレンヴァル村を訪れているフェルグス様だ。


 アデストリアで自らの父を裏切り、圧政に苦しめられていた人々を救った英雄。


 両親から、その姿と名前は何度も聞かされている。


 フェルグス様と戦っている男の人は敵なの…………………?


 でも………………荒々しい雷とは違い、優しい風は私の感じている恐怖を癒してくれる。


(あの男の人は誰なの?フェルグス様のような力強さは無いのに……………何故だか安心出来る。この感覚は、何なんだろう?)


 私は、自分の横で眠っている母………………他の村人の全てが眠っている異常な光景に気付かず、暫しその戦いに目を奪われていた。


 ただ、その集中は長く続かない。


「おい、せっかく村人全てを眠らせたんだ。このままボーッとしてても暇だろ?女どもも寝てるんだから、一丁ヤッちまわねぇか?」


 ヨトゥン兵の声に、私は自分の置かれている現状を理解した。


 10歳になった私は、ヨトゥン兵の言う言葉を直感的に理解してしまう。


(何が始まるの?いや……………………怖い………………助けて…………)


 私が縋るように見つめた先は、フェルグス様ではなく、フードを被った男の方だった。


 しかし、その男はカラドボルグの剣先に捕獲され、私の立つ崖下の壁に向かって飛ばされている。


 そんな………………私が寝ている間に、一体何があったの??


 とにかく、走って逃げなきゃ……………捕まっちゃう!!


 立ち上がろうとした私の視界に、倒れて寝ている母の姿が映る。


 そして、その母にヨトゥン兵が近づく。


 ダメだよ!!お母さんを置いて逃げれない!!なんとかしなくちゃ!!


「なっ……………………なんだって……………!!」


 何?誰の声?


「スリヴァルディ様!!」


 声の聞こえた方角を見たヨトゥン兵は、驚きの声を上げる。


 人質にとっていた女性………………フェルグスの母を捕まえていたスリヴァルディの腕は斬り落とされ、その女性は私の前に飛んで来た。


 先程のような優しい風が私の頬を再び撫で、その女性は風のクッションに包まれるように、ゆっくり地面に降りる。


 先程、崖にぶつかりそうだった男が、スリヴァルディの正面に立っていた。


「おい、スリヴァルディ様は不死身だ。別に大丈夫だろ。コッチはコッチで楽しもうぜ!!」


 私の目の前で母の服は切り裂かれ、生まれたままの姿にされた身体をヨトゥン兵が蹂躙し始める。


 いや………………気持ち悪い……………嫌だよ………………


 バババババババァ!!


 私の耳に地鳴りのような……………耳をつんざくような爆音が響き渡る。


「フェルグス!!裏切りやがったか!!所詮、人間か!!」


 多くのヨトゥン兵が雷で撃たれたのか……………


 黒焦げになったヨトゥン兵が、村人の集団の外側に倒れている。


 え?なんで……………お母さんを離してよ!!


 仲間が黒焦げにされる中、そのヨトゥン兵は裸の母を抱えている。


 中央にいるヨトゥン兵は、フェルグス様の雷じゃ倒せないんだ!!


 私達まで、巻き添えになっちゃう!!


「村人を盾にしてりゃ、奴は攻撃出来ねぇだろ!!何人か、お持ち帰りしちまおうぜ!!」


 お願い…………………お母さんを助けて!!


 涙が溜まったその瞳で、フードを被った男に懇願するように私は見つめた。


 綺麗………………なんて綺麗な瞳なんだろう………………


 オレンジ??ううん、神秘的な薄く紅いその瞳と視線が合った私は、心臓を鷲掴みにされたみたい。


 軽く頷いてくれたの??


 私の眼には、そう映った。


 ただ……………その一瞬が隙となり、スリヴァルディを捕らえていた剣撃が止められてしまう。


「ふぅ……………少しヒヤヒヤさせられましたが、もう貴方の間合いには入りませんよ……………それより、凰の目……………バロールに、カラドボルグより良い手土産が出来ました!!」


 凰の目??


 それが、あの瞳の名前なのかな??


 けど、私のせいでスリヴァルディを逃がしちゃった……………


 え??瞳の色が変化した………………もっと綺麗に………………それに、炎の翼……………あの人は天使なの??


 でも、私の方は見てくれない……………やっぱり、私のお母さんを助けるより、スリヴァルディを倒すのが優先だよね……………


 そんな風に思う私の髪を、力強い風が通り過ぎる。


 ザシュ!!


 お母さんを捕まえていたヨトゥン兵が、胴体を斬り裂かれて倒れた。


 女の人を襲っていたヨトゥン兵が、私の目の前で次々と倒れていく。


 神風………………なの?


 凄い……………あの人は、きっと神様が遣わしてくれた天使様なんだ…………


 だって…………ヨトゥン軍の隊長に、人間が1人で戦って勝てる訳ないもん!!


 けど、それだけじゃない!!私達を救う風まで届けてくれるんだから!!


 私は、その力強くも優しさを感じる風に想いを馳せた。

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