新たなる旅の仲間!その名はガーゴ!!
「それは、先程のヨトゥン兵が【真言】の魔法をみなさんにかけたからですよ。違う国の方と出会ったら【真言】を唱えるのは常識ですよ??」
と、首を傾げながら栗色の髪の女性が続ける。
「【真言】を使うと、相手の話てる言語が自分の知っている言葉に変換されて脳に届くんですよ。ところで、あなた方はいったいドコの国からいらしたんですか??」
「それは凄い便利だな!!頑張って外国語勉強してた自分が虚しく思えてくるよ………って、どこの国………か。難しいけど、この海の先かな………?」
航太は、しどろもどろになりながら答えた。
「海って何ですか??この湖の先は、私達の国【ベルヘイム】ですよ??」
さらに女性は怪訝そうな顔をする。
「これって湖なの??てっ、まぁそれよりさ【真言】ってスゴいね♪他に何か出来ないの?」
咄嗟に絵美が話題を変える。
「うーん、そうですね………」
女性が少し考え込む仕草をする。
ふと、絵美が持つアヒルのヌイグルミに目が止まる。
「ちょっとの間動かないで下さい」
女性は絵美に向かって手を広げる。
「何??」
絵美が体をビクッとさせる。
「すぐ終わりますよ」
女性は微笑みながら言うと、奇妙な言葉を発した。
すると、絵美の体から薄い光が溢れ出てきて、集まり球状になる。
その光の玉が、アヒルのヌイグルミに吸い込まれる。
すると、アヒルのヌイグルミが突然動き出す!!
絵美の手から抜け出すと、砂浜を1回・2回と転がり、喋り出した。
「がががががががガーゴでしゅ~~」
??????????????????
航太達は呆気にとられる。
「いかがですか??」
女性は呆気にとられてる航太達に気付き苦笑する。
「すごーい♪♪ガーゴが喋ったぁ♪♪」
絵美は飛び上がって喜んだ。
「でも、一体どうして??」
智美は信じられない目でヌイグルミを見つめた。
「彼女の魂の一部をそのヌイグルミに移したんですよ。あっ自己紹介がまだでしたね!私は【エリサ・プロッサム】治療系魔法専門です。こちらは【ネイア・ペンティス】軍で看護長をしてます」
「【ネイア】と申します。先程は危ない所を助けて頂き、ありがとうございます。私達は【ベルヘイム軍】に従軍しています。失礼ですが、人とヨトゥンが戦っているのは全ての人が知っている事。そもそもヨトゥンの事も知らないようでしたね。貴方がたは、一体何者なのですか?」
ネイアの冷静かつ厳しい口調に、和んでた空気が一瞬で凍りつく。
固まっている3人を見て、エリサが笑いながら砂浜を転がっているアヒルのヌイグルミ【ガーゴ】を捕まえる。
「ネイアさん、今はお仕事中でもないんですし、命の恩人達に詮索なんてしないようにしましょうよ。私達を助ける為にヨトゥン兵と戦ってくれた…………それだけで充分じゃないですか」
エリサは優しくガーゴの頭を撫でながら、女神のような笑顔で場に張り付いた氷を溶かした。
しかし、ただ1人……………いや、1体は場の空気を読まずに、エリサの腕の中で……………
「何するでしゅか~~~離すでしゅ~~~」
と、騒いでいる。
……………………
一瞬の沈黙の後、智美が突然吹き出した。
「ゴメンなさい。なんだか私達も、色々ありすぎて気持ちが張りつめていたから、少しパニックになっちゃって……………戦争中で、突然世間知らずの人が現れたら、警戒して当然ですよね」
智美は少し笑いながら、航太に助け舟を出すよう視線を送る。
その視線を感じ、航太はフゥっと溜息をついてから、自己紹介とこれまでの経緯を話し始める。
話の混乱を避けるため、義弟の父親の形見の剣を持って旅してる事にし、異世界から来た事は話すのを避けた。
旅に出る前は辺境の小さな村から外に出た事がないから、常識が無い事もつけ加えた。
「ところで、魂の一部を使ったって、絵美の体は大丈夫なんですか??」
智美が海辺でガーゴとはしゃいでる絵美を見ながらエリサに聞く。
「大丈夫ですよ。魂の情報を移動しただけですから、体には害はありません。絵美さんの記憶も入ってますから、みなさんの事も分かりますよ」
エリサは笑いながら、絵美とガーゴのやり取りを見つめる。
「絵美が2人か…………天騒がしくなりそうだな……」
再び航太が溜息をつく。
「あー!!航ちゃん、今私の事馬鹿にしたぁ~~」
「馬鹿にしたでしゅ~~航太のくせに馬鹿にしたでしゅ~~ムカつくでしゅ~~」
絵美とガーゴのダブル攻撃で、流石の航太も沈黙する。
そんな事をしていると、遠くから航太を呼びながら走ってくる人影が見えた。
「航兄!!場所移動するなって言っといただろ!探すの大変だったよ!!」
人影の正体は、一真だった。
「すごーーい!!本当にカズちゃん来た!ネイアさんってば、魔法使いみたい!」
(いや……………多分、魔法使いだぞ……………)
航太は、心の中で絵美にツッコむと、頭の上にハテナマークを出している一真に声をかける。
「わりぃな。女の人の悲鳴が聞こえてきたから、助けてたんだよ」
航太は一真に今までの経緯を話した。
「ネイアさんは看護長らしいぜ。一真、勉強させてもらったらどうだ?」
航太は冗談ポク言う。
「ん…………そうだね…………そうさせてもらうかな?」
そう言いながら、左腕を抑えた。
よく見ると、一真は左腕から出血しており、砂浜には血液が垂れた後が点々の残っている。
「カズちゃんどうしたの!その傷!」
絵美が最初に気付き、上擦った声をあげた。
「大変でしゅ~~~血が出てるでしゅ~~~プシュー」
ガーゴが大騒ぎする………
「なんだ??こいつ?????」
一真は傷の痛みを一瞬忘れ、ガーゴを見て目を丸くした。
「始めはみんな同じようなリアクションだな…………エリサさん、一真の腕治せますか?」
航太はエリサに聞くと、エリサは軽く頷き、一真の腕を手にとった。
「すぐに終わりますよ」
エリサは言って、一真の傷口に手を添える。
すると淡い光りが手の中から溢れ出て、一瞬で傷が塞がる。
「ありがとう。助かります」
一真は左腕を振って治った事をアピールする。
「魔法って、凄いですね!」
智美は魔法に興味津々のようだ。
「いえ、魔法も万能ではないんですよ。無から有は作りだせないんです。例えば火の魔法を使うなら、その場に火か火を作り出す何かがないと使えないんです」
エリサは自分の手の平を見ながら言う。
「その点Myth Knightの皆さんは神器の力を引き出し、無から有を作り出せる。正に神に選ばれた英雄ですわ」
ネイアがMyth Knightを本当に尊敬してる事が、口調でよく分かる。
「一真様も神器を使えるんですか?」
ネイアが一真を覗き込むようにして問う。
「オレは違うよ。そんな力あったら傷なんか負わないよ。ただの看護師見習いです」
一真は頭を大きく振りながら否定した。
「ところで、2人はこんな海辺で何をしてたの?」
一真が航太に「当然事情は聞いたんだよね?」とばかりに話かける。
……………………
とりあえず航太は智美に「助けて」の視線を送るが、それに気付いた智美が明後日の方を向く。
(^-^;
「まーなんだ、ほら、お2人は何故こんな海辺に??こんな真夜中にお嬢さん達だけて歩くなんて危ないなぁ~~」
エリサとネイアに航太が聞く。
(何エロ親父みたいな台詞をしどろもどろで言ってんだ?)
と、空間飛び込え組全員が思った瞬間………
スパーン!!
何故かトイレのスリッパを持ったガーゴが、航太の頭をひっぱたいた。
「いてぇ!!」
「【いてぇ】ぢゃないでしゅ~~。阿呆でしゅか~~」
「アヒル野郎……………いい度胸だぜ!!」
話そっちのけで航太とガーゴの追いかけっこが始まる。
(ナイス突っ込み!!)
と心の中で一真は思いつつ、改めてエリサ・ネイアの方を向き口を開く。
「で、真夜中の海辺でいったい何をなさってたのですか??」
「患者さんの傷を洗ったり、飲む為の水を運ぶ為に来たんでした!!」
自分の仕事を思いだし、バケツに水を汲もうとするエリサ。
「海水でやるんですか??傷口洗うなら綺麗な水でやらないと………それに女性が水を運ぶんですか??」
一真は驚きの表情をする。
それを聞き、ネイアが一真に話かける。
「戦争中は殿方は命をかけて戦ってる…………だから私達も頑張らなきゃね!水は魔法で綺麗にするんですよ。ところで他の方も海と言ってましたが、ここは湖ですよ??海ってなんですか??」
「私達が住んでた所は、大きい湖を海って呼んでたんですよ!」
智美が急いでフォローする。
どうやら、この世界に【海】という単語は存在しないらしい。
「じゃあオレも手伝うよ。オレは戦えないから、こんな事ぐらいしか出来ないしね!」
エリサの持つバケツを一真が奪い取るように受け取る。
「じゃ、我が軍の夜営地に案内しますね!」
ネイアが歩き始める。
「航ちゃん!絵美!行くよ!」
海辺でじゃれてる2人と1匹??に智美が話かける。
「ガーゴの存在忘れてるでしゅ~~酷いでしゅ~~(・_・、)」
やれやれ、騒がしい旅になりそうだ…………




