救う為の決闘
「さて、フェルグスさん、村の中心まで来てもらいましょうか」
【伝心】の魔法によりフェルグスの頭に直接語りかけたスリヴァルディは、自身の勝利を確信していた。
スリヴァルディはその特性上、人質をとる戦術が有効である。
どんなに刃を突き刺しても、何度殺しても死なない身体があり、スリヴァルディに先に人質を殺されてしまう。
それが分かっているから、人質をとられたら言う事を聞くしかない。
大切な人であれば、尚更だ。
フェルグスは唇を噛み締めながらも、スリヴァルディの指示に従うしかなかった。
そして、レンヴァル村の中心で、白と黄金の鎧を纏う騎士と、パーカーのフードを被った男………………対称的な2人が対峙する。
「そこで、決闘して頂きましょうか。フェルグスが勝ったら母親をお返ししましょう。そして、風のMyth Knight……………貴方が勝ったら村人を助けてあげましょう!!」
スリヴァルディは腕を広げて、大きな声で決闘を促す。
刺すようなフェルグスの視線をスリヴァルディは感じるが、何も出来ない事を知っている為、気にもならなかった。
「決闘……………か。そちら命令を飲むなら、こちらの提案も聞いてほしい」
「ふん、貴方は指示される側の人間。提案など聞く必要もないが……………内容によっては、いいでしょう」
フードの被った男の言う提案など聞く必要もないが、自分の思い描くような展開に酔っているスリヴァルディは、とにかく気分がいい。
「全ての村人達を集めて、眠らせてもらいたいんです。決闘中に、村人にまで意識を集中させれないと思うんですが、視界に入れておかないと、気が散ってしまいそうで………………」
「そんな事ですか……………いいでしょう!!お前達、村人達を集めて、眠らせなさい!!」
スリヴァルディは護衛の兵に声をかけて、殺戮を止めさせて、村人を丘の上に集めさせる。
「村人達が眠ったのを確認出来たら、決闘します」
フードを被った男の落ち着いた声に、フェルグスは疑問を感じていた。
戦場で会った男の事を、いちいち覚えてはいない。
航太の事も、顔や背丈は思い出せなかった。
しかし、剣………………エアの剣は、ハッキリ覚えている。
(風のMyth Knight………………落ち着きのない印象だったが……………それに私と決闘して、勝てると思っているのか?数日前の戦闘で、手を抜いているようにも感じなかったが………………)
フェルグスは、ゼークと共に戦っていた男を必死に思い出すが、強かったイメージは無い。
「さぁ……………村人達も眠らせましたよ!!早速、戦ってもらいましょうか!!」
スリヴァルディが、再び決闘の宣言を高らかに叫ぶ。
「くそ、仕方がないか………………恨みは無いが、やるしかない!!」
フェルグスは【カラドボルグ】を構え、フードの被った男の様子を伺う………………が、戦う気があるのか?
腕は下がり、戦闘の意思をあまり感じられなかった。
「どういうつもりか知らないが、母を救う為だ!!戦う気が無いなら、大人しく死んでくれ!!」
カラドボルグに、間合いなどと言う概念は存在しない。
突き出されたカラドボルグは、閃光の如く伸びてフードの被った男に襲いかかった。
フードを被った男を貫いた……………誰もがそう思ったが、カラドボルグの描く閃光は、その男を貫く直前に湾曲し、何も無い地面に突き刺さる。
フード被った男の目の前に優しい風の天使がいて、その吐息で護っているかのように……………カラドボルグは何の抵抗も無く脇に逸れた。
「なんだと!!そんな……………馬鹿な!!」
何者も貫くカラドボルグ……………神器の一撃が、自分の意思以外で目標を外す事など考えられない。
それが、何の衝撃も無く逸らされた。
「何かの間違いだっ!!私の気持ちに、迷いがあったからに違いない!!だが、母を救わなければならない……………次は外さん!!」
得体の知れない恐怖を感じながら…………しかし、フェルグスは迷いを捨てて、再びカラドボルグを構えた……………




