襲われたレンヴァル村
「ガヌロン、遅くなった。早速だが、話を聞こうか」
幕舎に着きガヌロンを見つけると、アルパスターは口早に言う。
「はい……………彼に話を聞かれても、大丈夫ですか?」
「問題ない、仲間の話だ。心配もあるだろう。で、智美がロキに捕われているという事だが……………」
ガヌロンは頷くと、アルパスターに1枚の手紙を差し出した。
ガヌロンから差し出したされた手紙を、心を落ち着かせるように徐に受けとると、アルパスターは目を通し始める。
『水のMyth Knightを預かっている。レンヴァル村にて引き渡しを行いたい。引き渡しの時、1人で来る事以外の条件は無し。我々も女性の捕虜を何時までも預かっているのは気が引ける。早々の引き渡しをお願いしたい』
そう、書かれていた。
「ガヌロン、どう思う?」
「罠…………の可能性も、当然考慮に入れるべきでしょう。しかし、ヨトゥン軍にあっても紳士的と噂されるロキの率いる部隊の捕虜ですからな……………向こうの言い分を聞けば、素直に応じてくれる可能性もあるでしょう」
ガヌロンの答えを聞いて、アルパスターは考え込んだ。
ここでの対応を間違えれば、智美は2度と戻って来れない事もありえる。
「やはり、捕虜の引き渡しを受けるしかないでしょうな。引き渡しの時に1人であればよい…………となれば、村に部隊を配置していても問題はない訳ですからな」
ガヌロンの言葉を聞きながら、アルパスターは手紙からロキの考えを読み取ろうと必死に考えた。
しかし、問題のある文面にも見えない。
引っ掛かるとすれば、ガヌロンの指摘した『引き渡しの時、1人で来る』の文面のみ。
何故、遭えて引き渡しの時に限定して1人にしているのか…………?
この文面を素直に受け取れば、ガヌロンの策は問題無く思える。
そう考えていると、突然幕舎の幕が開いた。
「何事です!!」
ガヌロンは慌てる様子で入って来た兵に対し、声を荒げた。
「すいません!!しかし、レンヴァル村でヨトゥン兵が暴れているようなんです!!戦火が広がっています!!」
その報告に、ガヌロンとアルパスターはお互いの顔を合わせた。
「一体、何が起きているんだ。だが、このまま放置しては智美が危ない。兵をレンヴァル村に派遣しなくては!!」
アルパスターは立ち上がり、兵の派遣を伝えようとする。
「将軍!!少し冷静に…………兵を派遣したら、どうなるか……………よく考えた方が、よいのでは?」
ガヌロンに言われて、アルパスターは手紙の文面を思い出して言葉を飲んだ。
「そうか………………しかし、何故ヨトゥン領でヨトゥン兵が暴れるんだ?自国の民を苦しめるだけではないのか?」
「レンヴァル村は、ヨトゥン領とは言え人間しか住んでいない村…………それより、連戦で兵も疲弊しきっている。鎮圧部隊を投入するなら、捕虜の事もあるので少数精鋭がよろしいかと」
アルパスターは無意識に、隣に座っている男に視線を向けた。
彼は少し頷くと、静かに立ち上がる。
「皆に話をしてみます。智美の為なら、動いてくれると思うので…………」
そう言うと、彼はアルパスターとガヌロンに頭を下げる。
「外は寒くなってきた、フードを忘れるなよ。風邪をひく…………」
アルパスターの言葉に頷くと、彼は幕舎を後にした。
「大丈夫ですかな?彼とお仲間は、関係が少しギクシャクしていると聞きましたが…………」
ガヌロンの心配とは別に、アルパスターは別の心配で頭が一杯だった…………




