凰の目
「もうアルったら………………まだ忙しい時間なのに呼び出して…………会ったら文句の1つでも言ってやらなきゃ!!」
航太達がレンヴァル村から戻って来る少し前、ホワイト ・ティアラ隊の隊長でもある【ネイア・ペンティス】は、幕舎から少し離れた林の中を歩いていた。
アルパスターから人のいない所で話があると言われ、仕事の合間に時間を作っていた為、ネイアは少し苛つきながら歩いている。
しかし、久しぶりに恋人であるアルパスターと2人きりの時間が持てそうなので、その感情とは裏腹に心は躍っていた。
と……………その時突然に、背筋に悪寒が走った。
「何…………この感じ…………凄い圧力を感じるけど………」
ネイアは、その圧力を感じる木の間に視線を移す。
バサバサバサっ
その視線の先で、風も吹いてないにも関わらず、何本かの木が揺れた。
「何……………何なの……………」
ネイアは、恐怖と好奇心と…………不思議な感情のまま、歩いていた足取りは少し早足になり、木の揺れている中心に近づいていく。
そこに立っていたアルパスターに、ネイアは気付いた。
「アル……………こんな所にいたの?この凄い圧力は一体何?胸がドキドキするような…………」
ネイアの声を聞いたアルパスターは、咄嗟にネイアの口に自らの手を当てて言葉を遮る。
「ネイア…………少し落ち着いてから見てくれ……………彼の邪魔はしないようにな……………」
ネイアは再び、視線を揺れ動く木の中心に向けた。
「っ……………………!!」
大声を出しそうになったネイアは、今度は自分の手で口を塞ぎ、声が出すのを抑え……………そして…………息を飲む。
その視線の先…………………小さな男が、80センチ程度の小ぶりで身幅が広い両刃の剣を持ち、その身体に力を入れている。
その剣圧のみで、周囲の木々を揺らしていた。
それだけでも驚きなのだが、ネイアが驚いたのは、身体の小さなその男の目……………その瞳が赤く輝いていたのだ。
「そんな……………あれ、凰の目じゃないの??……………なんで彼が…………」
【凰の目】
神話の世界に住む人なら誰もが知っている【7国の騎士】の1人、【アスナ・フェニックス】の持っていた伝説の赤い瞳…………
アスナの凰の目が輝く時、神の力ですら押し返すとまで言われる瞳………
何10年も前にアスナと共に失われた瞳が、今ネイアの前で輝いている。
「驚いただろ?俺も彼と最初に会った時、身が震えたよ。驚きと…………そして希望。彼がいれば、バロールの魔眼に対抗できる………」
そんなアルパスターの声が耳に届いているのか、いないのか…………ネイアは全く反応出来なかった。
思いがけない男が、思いがけない力を持っている……………言葉にならない程の驚きが、ネイアの心に渦巻いている。
「今は……………この事は内密にして欲しいんだ……………オレとキミとユングヴィ王子の3人のみが、この事実を知っている。ヨトゥン軍に気付かれたら、バロールに近付く事が難しくなってしまう…………」
「見られただけで人間を死に至らしめるバロールの魔眼…………今回の遠征軍の大半は、バロールとの決戦で殺される事になる…………そう思っていた……………でも、彼がいてくれたら……………」
アルパスターの言葉に、茫然とした瞳を小柄な男から目を話せないネイアが、希望の言葉を口にする。
「そうだ………凰の目を持つ人間のみが、バロールの魔眼に対抗出来る。そして、彼の力は伝説となっているアスナと同等か……………それ以上だと思うぞ」
その言葉に、ネイアの瞳は大きくなる。
気の弱そうな彼が、伝説となっている騎士より強い??
ネイアには、思いも寄らない事実だった。
「ネイア、キミには話しておきたかったんだ…………彼のいる部隊の隊長として……………そして、オレの大切な人として…………彼は、人間の宝……………そして、切り札だ。ホワイト・ティアラ隊がもし敵の攻撃に晒される事があれば、命を懸けてでも守って欲しい」
「分かってる。バロールと戦うまでは、彼をヨトゥン軍とは戦わせない。バロールに彼の事が知られたら、姫を奪還出来る可能性が失われる…………でも、彼の強さは本物なの?命を懸けなきゃいけないなら、知っておきたい。彼の強さを…………」
ネイアの言葉に、アルパスターは頷いた。
「そう言うと思っていたよ。だから、こんな人気の無い場所にキミを呼んだんだ。代償が付き纏うその力を…………彼はキミになら見せてもいいと………………な」
アルパスターはそう言うと、神槍ブリューナクを構える。
「アル……………何をするつもり!!」
「オレの全力が彼に通用するか……………その目で見届けてくれ!!彼が命を懸けて守る価値があるのかを!!」
その言葉が終わると同時に、ブリューナクの先から閃光が3本、彼に向かって撃ち出された!!




